「…はぁ」

サボろ思うたのに、なんで俺、ここにおるんやろ。
管弦楽部の楽器が置かれている狭い部屋の中、アブサントを胸に抱き、ぼんやり窓の外を眺める。

「副部長」

「芹沢くん…今日は俺、サボりやで」

「……部室にいらっしゃる時点でサボりではないと思いますが」

「せやったら、いないもん思うて」

「それは無理です」

きっぱり言われ、肩をすくめる。

さんがいらっしゃいました」

「知っとう」

「今、部長とお話をされています」

「…そうなん」

「はい。それで…」

「二人のことは、ええよ」

芹沢くんの言葉を遮り、青空にひと筋の雲が伸びていく様を目で追っていると、聞き覚えのある足音が近づいて来た。

「蓬生」

「俺はおらんよ」

「部長、副部長は本日サボりだそうです」

「ほぉ、随分堂々としたサボりだな」

「そういう気分なんよ」

「なら、と一緒に見学しろ」

その言葉に、ゆっくり視線を千秋のほうへ向ける。

「あいつが余計なことをしないように見張ってろ」

「…千秋」

「これの代償だ。ただのサボりだっていうなら、そんぐらいやれ」

頬に貼られた絆創膏を示してから、踵を返して部室へと戻る千秋の背に笑みが洩れた。
音を立てて扉が閉まると、思わず喉を鳴らして笑ってしまう。

「なんや…鬼部長復活やん」

これからどうなるか…なんて考えたんは、千秋をはじめて殴って以来や。
珍しく寝付けず、朝気分が悪うて遅刻したから、教室で千秋と話すことはなかった。
で、元気にクラスメートと話しとるんを見ただけで、安心してもうた。

せやから、そのまま帰ろう思たけど、なんでかここへ来てしまった。



やっぱり…千秋は、こうでなきゃあかん



「副部長、どちらでサボられますか」

「そうやね…これ以上カミナリが落ちるんは嫌やから、今日はのお目付け役に徹するわ」

「わかりました」

「芹沢くん」

「はい」

先に部屋を出ようとした彼に、心からこの言葉を告げる。

「いつもありがとうな」

「………副部長、熱でもおありですか」

「なんや、失礼やねぇ」

「申し訳ございません」

重く感じていたアブサントを手に持つと、それはいつもの軽さで俺の手に収まった。

「…ほな、行こか」



いつものように、彼の隣に立とう。
俺の、あるべき場所





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なんか知らんが、蓬生もすっきりしちゃいました!(えー!?)
やけにサッパリ仲直りする高校生男子(嘘くらい(笑))
けど、うん、私の中の神南ってこんな。
で、ちょいちょい美味しい芹沢くん!
59.友達以上に続きます。
2010/11/16