「…金澤さん」

「あ?」

「落ちますよ」

差し出された灰皿の意味がわからず、一瞬間をおいて目の前の不機嫌な人間へ視線を向ける。

「…灰です」

口にくわえていたタバコは、気づかないうちに灰色の部分を増やし、吉羅に声をかけられなけりゃ、あと少しで膝にその火種を落とすところだった。

「悪い」

差し出された灰皿へタバコを押し付け、2本目へと伸ばした手は、容赦なく掴まれ箱ごと没収される。

「何か気にかかることでも?」

「…いや、別に」

手持ちぶさたになった手で、自らの腕をつかむと、そのままぐっと力を入れて握る。










――― さんが好きなんだ…


森の広場で、のんびり午後の惰眠をむさぼっていたところに聞こえてきた声。
常ならば「若いねぇ…」のひとことで、聞こえないふりを決め込むところだが…今回は、そうはいかない。

「あ、あの…」

「ずっと君を見ていたんだ」

「…」

「…好きだ。つきあって、欲しい」

「……」

声だけが耳に届いているはずなのに、何故情景がこうもありありと目に浮かぶのか。

「返事は、急がない。俺のこと、知って貰ってからでいい…だから…」

「……」











「……はぁ」

「金澤さん…話がないなら、帰ってください。鬱陶しいです」

「おいおい、仕事手伝ってやってる勤勉な教師にそれはないだろう?理事長サマ」

「今の状態の貴方では、猫の手にもなりません」

きっぱり言い放った後、無言で手を動かす吉羅にそれ以上何も言えず、俺は冷えきったコーヒーを一気に飲み干すと重い腰をあげた。










誰もいない校舎…
理事長室を出て、夕日が差し込む窓辺に額をつけて…誰ともなく、ぽつりとつぶやく。

「…好きだ
……愛して、る

唇をかみしめ、ぐっと拳を握りしめる。



卒業まで、口にすまいと決めた想い
けれど、一度沸きだした気持ちを、抑えるのは…大人のプライドでも難しい。



あいつは、俺のモノだと
頭からつま先まで、自分のモノだと…
告げられない、告げてしまいたい

けれど、そんな関係を選んだのは…あいつと、俺…だ





BACK   42.聞かれた!?



告白現場に出くわしてしまい、それが予想以上にキタ金やん。
個人的にこーいうのはツボです。
キュン死にしちゃうね☆
2010/07/31