「さん」
「はい?」
振り向くと、そこにいたのは普通科の制服を着た赤ネクタイの…同級生。
人の顔を覚えるのが苦手な自分としては、名前がわからない人は知らない人も同然。
若干警戒しつつ、一緒に遊んでいたハナさんをぎゅっとだっこして彼の続きの言葉を待つ。
「その、今…いいかな」
「えと…なんでしょう」
警戒していたせいで、いつもよりも強く抱きしめてしまったからか、ハナさんが腕の中でじたばた暴れ始めた。
小声で謝罪をしつつ、手を緩めて芝生の上に下ろすと、大きく伸びをしてから茂みに向かって歩き出す。
その姿を見送っていると、もう一度…今度はさっきより強い声で名前を呼ばれた。
「さん!」
「はい!?」
その勢いにびっくりして振り向くと、彼は真っ赤な顔である言葉を告げた。
「さん、君のことが…す、好きだ」
「………え」
――― 今、なんて…?
そんな表情を読んだのか、今度は少し落ち着いた声で、告白、された。
「さんが好きなんだ…」
「あ、あの…」
こんな風に告白されることが、今までなかった…とは言わない。
けれど『最近』は、ない。
「ずっと君を見ていたんだ」
「…」
誰にも言えないけれど、金やんが…あたしの、彼氏…だ。
卒業するまでは、内緒の関係だけれど…それでもいいと望んだのは、あたし。
「…好きだ。つきあって、欲しい」
「……」
その声を通り越し、視界に飛び込んできたのは…茂みの中で揺れる、猫の尻尾。
そこに、誰かいるのは明らかで…
そして、それが誰かも…明らか、だ
「返事は、急がない。俺のこと、知って貰ってからでいい…だから…」
「……」
目の前の人の声が、耳をすり抜けていく。
どうして、この場にいるの…
小さく鳴いた猫の声とともに、するりと離れてく白い影。
その影は、大好きな人が作りだす…白衣の、色。
告白の場面なんざ見られたくないよね。
聞かれたくないよねってことで。
36.禁断の…にリンクしてたりする?(笑)
2010/07/31