――― ごめん…
病室の扉を開けた瞬間、聞こえた声に…思わず開けかけた扉から手を離す。
静かに閉まった扉は、中の人物に、俺が戻ったことを告げることはなかった。
「…なんなん、それ」
落ち着いた感情が、別の方向へと動き出す。
堪えきれない思いを手のひらへ収めるよう、ぐっと手を握りしめた。
学園祭に向けての選曲、スケジュール。
全て千秋の納得行くよう組んでいけば、どうしても無理が出ることは明らかやった。
普段であれば問題はないが、今回は昨年と違い、間にひとつ、別のコンクールが入ってしまったせいでもある。
出なきゃあかんもんでもないし、夏の大会のように打ち負かしたい相手がおるわけでもない。
けど、もう一度…千秋と、俺と、芹沢くんで演奏したい思うて参加を決意した。
「いつにも増して酷なスケジュールやね」
「それを乗り越えてこそ、俺たちが抜けても大丈夫だという自信になるだろ?」
「せやけど、奏者はともかく、サポートメンバーもきっついで?」
「そんな柔なサポーターはいない」
神南高校管弦楽部を影で支える、所謂縁の下の力持ち。
そこに当る部分をまとめとるんは…や。
に対する圧倒的信頼の表れでもある発言に違いはないが、千秋…忘れちゃあかんよ。
あの子は、女の子や。
しかも季節の変わり目の今は、あの子にとっての鬼門にあたる。
――― あかんよ、それじゃあ誰かが倒れてまう
ハッ!そんな弱いヤツ、この俺の下にいるはずねぇだろう ―――
――― せやけど、心と身体は違うんよ、千秋
心が強けりゃ、身体もついてくる ―――
最後の言葉に、のせられた俺も悪い。
けど、あの言葉は…事実や、思うた。
病室で寝てばかりの自分。
その日を過ごすことで、いっぱいいっぱいだった自分。
そんな自分に、前を見ること…先を考えることを教えてくれたんは、他ならぬ千秋本人。
前を見て、千秋と共におることを考え…そして、と三人で過ごすことを考えたからこそ、今の自分がおる。
せやから、あそこで…折れたんや。
ほな、精一杯やろか…て。
「それを言うた本人が…今のに、ごめんて…」
それは、あそこまで頑張ってきたに対して失礼や、千秋。
前回、ごめん…と言った千秋もびっくりだが、書いてて怒りを表した蓬生にもびっくりしてます。
本当に文章ってイキモノだなぁと思います。
管弦楽部を支える裏方ってのは、勿論捏造です(苦笑)
幼少期の蓬生も捏造ですが、でも千秋の存在があってこそ、前向いて…って感情は生まれた気がするんです(でも捏造(笑))
49.ケンカに続きます。
2010/11/14