「…千秋」
「なんだ蓬生、遅かったな」
「ちょお、外出てもろてええやろか」
「なんだ、帰るのか?が起きるまで待ってるつもりじゃ…」
「彼女を起こしとうないから、外に出ぇ言うとるんよ」
蓬生の瞳が、普段見せない色を見せた。
「…わかった」
何に対してかわからないが、怒りを露わにしている蓬生に気づき、荷物を手に病室を出る。
「こっち来ぃ」
顎で示される態度に腹は立ったが、院内で声を荒げるわけにもいかない。
それでも受付に声をかけて帰る辺り、冷静さは失っていないようだ。
エレベーターが1階に下りるまでの、なんともいえない空気に眉を顰めながらも蓬生の後に続く。
自動扉が開き、そこを出た瞬間…ネクタイごと胸倉を掴まれた。
「何、謝っとるん」
「なんのことだ」
「あの子に、ごめん言うたやろ」
「盗み聞きとは趣味が悪いな」
俺よりも白く細い腕を掴んで、引き剥がそうとすると、思ったよりも力が入っており剥がすことが出来ない。
「…まだ、ちゃんと答えて貰っとらんよ」
「何を怒ってる」
「あんたがあの子を馬鹿にしたからや!」
つかまれていた手が離れると同時に、頬に拳が当っていた。
近距離だったため威力は落ちるが、僅かに足がぐらつく。
「っ!」
「引っ張ってくつもりなら、最後まで引っ張ってき!突然手ぇ離すなんて、最悪や」
数センチ背が高い蓬生のネクタイを引き、真正面から睨みつける。
「誰が手ぇ離したちゅうねん!」
「それもわからんのやったら、鬼部長やのうて、アホ部長や!」
「蓬生、てめぇ…」
「あの子があないに頑張った意味…考えればええ」
ぐっと胸に手を当てられ、強い力ではねつけられる。
「さようなら、東金部長。ほな、また明日」
「蓬生」
「けど、明日は仮病で休ませて貰う予定やから。また、明後日…になるな」
「蓬生!」
「サヨナラ」
強く名を呼んでも、長い髪を揺らしながら足早に向かったあいつは…一度もこちらを振り返らずに、車を発進させた。
「…ちっ」
地面を蹴り、久し振りに殴られた頬に手を添える。
「口ん中切れとる」
口内に広がる血の味に、すぅー…と昇った血が下がる。
「学祭前に…大事な手ぇ使って殴る阿呆がおるか」
指で唇を拭えば、そこに赤い血が擦れたようにつく。
親父に殴られた時を思えば、力も何もかも差があって、痛くもなんともない。
だが、あいつの言葉は…身体ではなく、心を打った。
「あいつのが俺以上に短気やんなぁ…」
後ろを向いても、そこには誰もいない。
いつもならば、心配して駆け寄るあいつも、呆れるように俺を見るあいつも…誰もいない。
「…手よりまず、口で言えや」
暫しその場で座り込んでいた俺の頬を、日が沈んだ秋の冷たい風が腫れた熱を冷ますかのように撫でていった。
書いた本人が一番理解していません…二人をorz
頑張って倒れた人間が求めるのは、謝罪ではない…ということ、ではないか、と。
謝罪されると、倒れた自分が辛い…よ、ね…みたい、な?
いや、もう、本当に色々…理解してないけど、すいません。
でも、怒る蓬生と、カッとなったのが冷めてく千秋はツボだったんです(おい)
65.一種の麻薬に続きます。
2011/11/14