テレビの画面では、特に興味のないワールドカップが行われている。
「いけーっ!」
「そこだ!」
目の前の二人は画面に釘付け。
選手が蹴るボールを、まるで猫のように目で追いかけて一喜一憂しとる。
「あぁー!!」
「ちっ…審判、どこ見てやがる」
試合開始した頃には氷が浮かんどった二人の飲み物も、今ではグラスの雫となって床へと染み出しとる。
あぁ…あとで掃除せなあかんね。
そんなことを思いながら、空になったグラスに残っていた氷をひとつ…口に含んで、舌で転がす。
「うわっ、危ない!」
「ナイスセーブだ」
テレビなんて、こないにじっと見ることはない。
そこまで興味を持つものなんて、自分には…ない。
けれど…
「やったー!!勝った勝った!!!」
「ナイスプレイだ」
ハイタッチをしながら、興奮気味の表情でこちらを振り向く千秋と。
「勝ったよ、蓬生!」
「この試合なら、お前も眠ったりしなかったろう」
「せやね。今日のはなんや楽しかったわ」
「じゃあ、今度のベスト16の試合も一緒に見ようよ!」
「はっ、お前起きていられるのか?」
「今日だって起きられたもん」
「起こしてやった、の間違いだろ?」
堪忍な、二人とも。
俺が見とったんは、試合とちゃうんよ。
試合を動かしているのは自分だとでもいうような顔で見とる千秋
そして、いつも以上に豊かな表情で一喜一憂する
あんたら二人見とる方が、テレビなんて見るよりよっぽど楽しゅうてええ…なんて、そないなこと言うたら、怒られてまうから内緒やけど、ね。
ワールドカップをひとりで見てたけど、こういうのが楽しいと思う。
88.約束に続きます。
2010/06/27