何だろう、この違和感。
ベッドで寝たはずなのに、手に触れているのはいつもの布団の感触じゃない。
何か薄い生地みたい・・・あぁ、そうだ、夏の浴衣に手触りが似てる。

「ん・・・」

それにこの匂い。
部屋に芳香剤なんて置いてないし、香水も外出時でなきゃつけてない。
それなのになんだろう・・・このお香みたいないい香りは?

あぁそれにしても眩しいなぁ、あたしの部屋に朝日は入らないからこんなに眩しいって事はもう随分時間が経ってるって事?
今、何時なんだろう・・・時計は何処・・・?



もぞもぞ手を動かし、違和感のある布地の上に手を滑らせながら時計を探すと・・・何故か笑い声のようなものが聞こえてきた。

「ふふっ・・・随分と大胆だね。」

「ん〜・・・?」

あれぇあたし、夢でも見てるのかな。
今の妙に色気のある男の人の声って・・・あの人の声に似てる。

「だがそろそろ目覚めて貰えるかな、姫君。」

「・・・姫・・・君・・・」

そんな風に艶やかな声で、当たり前のように『姫君』なんて呼んでくれる人をあたしはひとりしか知らない。
その声に誘われるかのようにゆっくり目を開ければ、視界に飛び込んできたのは ――― 最近睡眠時間を削ってまでも熱中していたゲームに出てくるあの人の顔。

「・・・」

「ようやく目覚めたようだね、異国の姫。」

「・・・」

その声、その顔・・・間違いないって言うか、間違うはずがない。
だって彼はあたしが好んでいつも怨霊退治に同行して貰っていた人なんだから・・・

「そんなに目を見開いて・・・何かその大きな瞳に映したい物でもあるのかな?」

「・・・た、橘、とも・・・まさ?」

「姫の第一声が私の名だとは・・・光栄だね。」

至近距離で艶やかに微笑む橘友雅さんは・・・それはもうバックに星やら花やら全部しょいそうな勢いでカッコイイ ――― ・・・じゃないっ!!
脳みそに微かにあった『理性』が、あたしを目の前の人から周囲へと視線を動かした。
右・・・左・・・正面・・・何処からどう見ても、あたしの部屋じゃない。
部屋、なんて小規模な言い方は間違いだね・・・うーんと日本家屋、しかも豪華なお屋敷って感じ。

「ここ・・・は?」

無意識に出た言葉に、近くで聞くと蕩けそうな美声で彼の人は答えてくれた。

「ここは土御門の館だよ。」



ま、待て・・・ちょっと整理しよう、うん。
頭の中で某ゲームのオープニング画面が流れるのを振り払って、状況を整理する。





あたしがいるのはどうやら土御門の館、らしい・・・って事は藤姫の館だったりして?
あははははっ、まさかねぇ〜・・・とまぁ、それは取り敢えずこの際置いといて。
目の前にいるのは何処からどう見ても友雅さん、だよね?
あたしが間違うなんて、この人に限っては絶対ない!はず。
で、部屋はどっからどう見ても平安時代のお屋敷風。

以上をもって、ここは・・・遙かなる時空の中で、の世界と見て
 ――― 間違いない。

間違いない・・・けど、どうしてあたしはこんな所にいるんだ?



頭を抱えてうんうん唸っていると、くすくすという現代じゃ到底聞く事のないような柔らかな笑い声が聞こえた。
チラリと視線をあげると、友雅さんが楽しそうに目を細めて笑っている。

「思案顔もまた魅力的だが、落ち着いたようなら少し私の話を聞いてくれないか?」

「あ、はい・・・」



取り敢えず・・・夢って事にしとこう。
そうそう!夢よ、夢!
夢なら友雅さんの声聞き放題だから大人しくしてよう♪



現実逃避をするのはあたしの得意技と言ってもいい。
そう思ってしまえば友雅さんが側にいてもただ嬉しいだけで、今どこにいようと関係ない。
ニコニコ笑顔で友雅さんの言葉に頷いた。

けれど、今自分がいる場所を自覚せざるを得ない言葉を・・・最初に友雅さんが言った。

「では、姫君の了解も得た事だし・・・このままの体勢で話をさせて貰って構わないかな?」

「は?」

「私としては君を腕に抱いたままで一向に構わないのだがね。」

「・・・」

そこまで言われてあたしは初めて今の自分の状況に目をやった。



――― あたし、なんで友雅さんの膝の上で横抱きにされてるんだ!?



こんな事今まで一度もされた事がない。
瞬時にその腕から抜け出そうと足に力を入れた瞬間、あまりの激痛に悲鳴をあげた。

「っっ!」

「無理はしない方がいい。足首を痛めているのだよ。」

「うぅ〜・・・」

「やはりこのままの体勢の方がいいようだね。」

「い、いいえ大丈夫です!一人で座れますからお気になさらず!」

足の痛みよりもこのまま抱きかかえられて友雅さんと話をする方が体というか心臓に悪い!
とにかく何とか膝から下ろして貰おうと必死で首を左右に振れば、友雅さんがあっけに取られたような表情をした。

「やれやれ、神子殿の世界の女性は色々と私の興味を惹き付けるね。」

「え?」

「いや、こちらの話だよ。」

友雅さんの声が良く聞こえなくて聞き返したんだけど、あっさりそれは無視されてしまった。
そして素直に下ろしてくれると思っていたあたしの体はひょいっと友雅さんに抱き上げられた。

とっ友雅さん!?

「おや?そんなに驚く事をしたかい?」

「あ、歩けますっ!一人で動けますからっ!」

バタバタと足を動かして一生懸命下ろしてもらうよう主張してみる。

「ふふっ・・・君はどうやら神子殿以上にこういった行為に慣れていないらしいね。」

「慣れてません!!」

「友雅殿?あの方はお目を覚まされましたか?」

チリンという高らかな鈴の音のような音が廊下から聞こえたと同時に、小さな女の子が姿を現した。

「・・・」

「えぇ、たった今目覚めた所です。」

「まぁ友雅殿、何をなさっているのですか?ひょっとしてお加減でも・・・」



・・・待って、小さな女の子だけどこれ、どうみても藤姫じゃん。



「彼女が足を痛めているので、私が彼女の足代わりにこうして移動している所です。」

「ですが・・・とてもお困りのようですわ。下ろして差し上げて下さいな、友雅殿。」

「藤姫のお望みとあらば。」

良く分からないけど藤姫のおかげであたしは友雅さんの腕からおろして貰う事ができた。
床に足を置いた瞬間、僅かな痛みが走るけど右足に体重をかけなければ大丈夫そう。
壁にもたれてそのまま腰を下ろすと、左前に友雅さん、右前に藤姫も腰を下ろした。
そして時代劇のお殿様が謁見をしているかのように、藤姫が両手をついて深々と頭を下げた。

「ご挨拶が遅れました。私は左大臣家の娘、藤と申します。古の慣わしに従い、星の一族を統べ、龍神の神子にお仕えしております。」



――― 知ってる、とか言っちゃマズイんだろうな。



頷きたい衝動を抑えて、藤姫の話に耳を傾ける。

「どうか我らが龍神の神子にお力をお貸し下さい・・・異国の方。」

「はぁ?!」





床に額がつきそうなほど頭を下げた藤姫の言葉に思いっきり疑問の声を上げた。



ちょっと待ってよ、これって・・・夢じゃないの!?





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遙か3で遊んだ後、ネオロマイベントへ行ったらすっかり脳内ネオロマになって思いついた話が・・・これ(笑)
え〜・・・早い話が、うたた寝遙か版です!!
うたた寝とは、当サイトの最遊記メイン夢小説で使っている設定で、原作の記憶を持ったままお話の世界に飛んでいくと言うある意味とんでもない設定の事です(笑)
ちなみに遙かな時空の中でバージョンのうたた寝は・・・神子が京を救えば、現代に帰れるという事になっています。
だから寝ても現実世界には帰って来ません(この辺が最遊記とは違います)
ヒロインの記憶はゲームの記憶がある、と思っていてください。
・・・原作設定を持ってきちゃうと、他の八葉が皆神子に流れてしまうので、この際無視します(笑)
↑とか言っておきながら、多少原作の設定も使いそうですが(苦笑)
その辺はおおらかに見逃してやって下さい!!

目覚めた時、友雅さんに横抱きにされてるってどんな気分でしょうねぇ〜w
現在八葉抄をやっている私としては、瞬時に耳まで真っ赤になるくらい照れますね(笑)
至近距離で友雅さんがいて、喋ってくれて、抱き上げてくれて・・・あぁ幸せいっぱい胸いっぱいw↑馬鹿。
さて、次に出会うのはどの八葉でしょう?のんびりお待ちくださいねw