03.たとえばの話
「ねぇ・・・一回しかあった事の無い人の夢って見た事ある?」
「はぁ!?」
友達の光に社員食堂で昼食を食べている時にそう問いかけたら・・・吹き出された。
「あぁ!やっぱりさっき書類棚にぶつけたショックでお馬鹿になったのね!」
そう言いながら光は子供の頭を撫でるように撫でながら「痛いの痛いの飛んでいけ♪」と言い始めた。
もぉ〜いくら身長が低いからってお子様扱いはないじゃん。
でもそれが光の優しさだって知ってるから、そのまま話を続ける。
「で?見た事、ある?」
真面目に聞いている事に気付いた光は記憶の引き出しを開けるように天井を見つめ唸り始め、ポンッと手を叩いた。
「うん、ある。」
「ほんと?」
なぁんだ・・・じゃぁそんなにおかしな事じゃないんだ。
――― あの人が夢に出て来たの。
今日、一度しか会った事の無い男の人が夢に出てきた。
それは以前あたしを友達と間違えて声をかけてきた長髪赤毛男で、こともあろうに夢の中であたしとその人は恋人同士だった。
普段のあたしなら絶対恥ずかしくて出来ない事を・・・夢の中のあたしは笑みを浮かべながら受け入れていた。
その人に肩を抱き寄せられ、頬が触れ合うほど近くで話をしていたあたしの顔は・・・とても幸せそうだった。
何を話していたのか内容までは覚えてないけど、その人の声を聞いていると何だか凄く安心できたのを覚えてる。
「で、は誰の夢を見たのかなぁ?」
「!?」
「顔が赤いって事は・・・男の人だったりしてぇ〜♪」
「光ー!!」
ちょうど夢の事を思い出していた時だったから、恥ずかしさのあまり顔が赤くなっちゃったじゃない!
そっそれにどうしてたかが夢の事でこんなに動揺しなきゃいけないの!?
「ま、それは冗談として。夢に出てくるって事はが気にしてるって事だよ。」
「え?」
「だってさ、一度しか会った事のない人間が出てくるって事はが気にしてずっと考えてるって事でしょ?夢はその人の願望が出るって言うし♪」
「願望・・・」
ちょっちょっと待ってよ!
あたしがあのナンパ風な人と・・・恋人になりたいって言うの!?
「嘘っ!絶対嘘!!」
「嘘じゃないよ。だって私が見た夢は今の彼氏との夢だもん♪」
「ほぇ?」
「同窓会で一回会っただけで、その後全然会わなかったのに出てきたんだから。」
「・・・マジ?」
「マジ。」
光がニッコリ笑顔で頷いたのを見てあたしは思わず頭を抱える。
だって・・・あたしの好みは長身で
――― あの人も身長高かったなぁ
笑顔が優しくて
――― ちょっと笑った顔、可愛いかったかも
相手の気持ちを読めるような人で
――― あの人、謝ってくれたっけ
いい声をした・・・
――― 耳元で囁かれた後、足の力抜けたよね・・・
「うきゃぁぁっ!?」
「さ、何かを自覚した所で昼休みオシマイ。仕事に戻りましょうか、サン?」
まだ半分も残っている食器を強引に手渡されて、まるで光の操り人形のように返却口へ向かう。
夢に出てくるヒトは、あたしの気になる人・・・
夢の中の出来事はあたしの願望。
それはただの例え話のはずだけど ―――