04.初恋











「っだぁぁっ!!」

勢いよく飛び起きて思わず自分の隣を確認する。

「あー・・・、今日は一人だっけ・・・」

ほぉーっと体中の空気が抜けてくような安堵感、そしてその後沸きあがる・・・熱。

「どうしちまったんだ、オレ。」

前髪をかきあげながらベッド脇に置いてある煙草に手を伸ばし、火をつけ口にくわえる。










おかしな事の始まりは言わなくても分かる。
泣いてる女に不覚にも見惚れてしまったあの日から・・・
その時からあの女の顔が頭から離れない。
何の用も無いくせに、彼女がまたあの場所に現れないかとついつい足を向けてしまう。
最悪な事に他のオンナと会っていても・・・ちょっとした隙に彼女の顔が頭に浮かんで、相手の名前を間違うなんて馬鹿な事すらしてしまう。
そんなオレに向けて馴染みのオンナが言った言葉、これがまたサイアク。



「悟浄・・・それって初恋?」



「何で百戦錬磨のオレが今更初恋なんてモン知らなきゃなんねェんだよ!」

頭の中をぐるぐる回っている『初恋』と言う不吉な単語を振り払うべく、来ていた上着を脱いでその足でバスルームに向かう。

「っ冷てェ〜」

蛇口を捻っても出てくるのは冷水。火照る顔には冷たくてちょうどイイケド、浴びるにはちと冷たい。ユニットバスに腰掛けて、水が適温になるまで手に当ててそれを待つ。



――― ・・・どちらサマですか?



ふと頭に浮かぶのは、ダチと間違えたフリをして声をかけた時の彼女の第一声。
あの後何度も足を運んで、ようやく会えた彼女。
腕時計で時間を確認しつつキョロキョロ周りを見ている彼女は・・・泣いていなかった。
いや、そりゃ当たり前の事なんだけど、オレの頭の中じゃ・・・彼女は泣いたままだったから、な〜んか嬉しくなっちまったんだよな。
ンで調子に乗って声をかけたら思いっきり不審な顔された・・・当たり前だけど。
そのままいつもの調子で話しかけて、それでも警戒されたからすぐ立ち去ろうと・・・



「したんだよな、一応。」

でも、離れられなかった。
警戒しつつもじっとオレを見つめる目が、
大きくて真っ黒な透き通るような目が・・・オレの心を掴んで離さなかった。



――― あの子はオレの中に欠けている何かを持っている。



オレの中で誰かがそう言った。
まっすぐオレを見つめる彼女。
見ず知らずの他人に声をかけられて警戒しつつも、じっとオレを見てくれるその眼差しが欲しかった・・・欲しかった?

「欲しかったぁぁ?!」

口に出してから始めて気付く。
今までオレの中に無かった気持ちが生まれているという事に。
動揺して落としてしまったシャワーは適温になっていたけど、オレはわざと温度設定を水に変えてそれを頭からかぶる。

(おいおいおい・・・マジかよ!!!)



今まで無かった気持ち ――― それは相手を欲する気持ち。



まっすぐ前を見つめる彼女が欲しいと、オレは認識してしまった。










でもオレは知っている。
この想いが『初恋』だというのなら、それが叶わぬ願いだという事も・・・





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