07.まっすぐ
変なキャッチセールスの人に無理矢理店に連れて行かれそうになったのを、知らない男の人が助けてくれた。
掴まれていた手をあっという間に外してくれて、まるで守るようにその人とあたしの間に入って庇ってくれた。
こんな時、助けてくれる人を王子様みたいって言うのかもしれない。
大きな背中に大きな手、それに・・・長くて赤っぽい髪。
・・・ん?赤い長髪!?
「・・・行けよ。二度とこんなマネすんじゃねェぞ。」
ちょっと声は低いけど、この声って・・・まさかっ!!
気付かれないよう横顔を覗き込んであたしは息を飲んだ。
――― あの時のナンパ男!!
そして連日夢の中であたしを優しく癒してくれる・・・恋人。
ちっ違うっ!違う!!
似てるだけであの人とは違う!
だってほら、その証拠にこの人はあたしの事気付かないじゃない。
それならお礼だけ言って早々にこの場を立ち去らなきゃ!!
――― これ以上、傷つきたくない。
「あ、あの・・・ありがとうございました。」
ペコリと頭を下げると、長髪の男の人がこっちを振り向いた。
正面から顔を見る勇気が無かったから、俯きながらあたしはもう一度お礼を言った。
「本当にありがとうございました。」
「・・・あー、いや・・・その・・・良かったな、無事で。」
そう言ってくれた声が夢の中の優しい声と全く同じで、反射的に顔を上げてしまった。
目に飛び込んできたのは・・・優しい笑顔と、赤い瞳。
あぁ ――― やっぱりあの時の人なんだ。
たった一度この人の友達に間違われただけ、言葉を交わした時間だって数秒にも満たないのに・・・どうしてこんなに心に残っているんだろう。
あの時と同じ、吸い込まれるように彼の目をじっと見ていると、彼が急に表情を変えあたしの肩を掴んだ。
「危ねェ!!」
「え?」
そう言って抱き寄せられたと同時に車が物凄い勢いであたし達の脇を通り過ぎて行った。
あまり広いとは言えない路地の真ん中で立ち話をしていたからしょうがないとは言え、あたし一人だったら・・・危なかったかもしれない。
ギュッと抱きしめられている事に驚きながらも、嫌な気はしなかった。
――― 見知らぬ人に抱かれているのに・・・
どうやってこの腕から抜け出せばいいのか分からずにいたら、男の人がゆっくりあたしの顔を覗き込んだ。
「怪我、してねェか?」
「あ、はい・・・大丈夫です。」
「そっか・・・っと、ワリィ!」
「え?」
抱きしめていた腕を慌てて離して一歩下がる姿は・・・その外見と違ってやけに滑稽で、あたしは失礼だと思いながらも吹き出してしまった。
「・・・ぷっ!」
――― この人、可愛い。
「あははっははっ!」
「あぁ?」
あたしが笑い出す理由が分からない彼は、怪訝そうな顔をしながらこっちを見ている。
その姿がまた可愛くて・・・あたしはお腹を抱えて笑い出してしまった。
さっきまでの臆病なあたしはどこへ行ってしまったんだろう。
彼の目を見ていたら・・・そんなのすっかり忘れてしまった。
もっと、もっとこの人の事 ――― 知りたい。