08.未来











棚からぼた餅・・・ってのを実感したのは初めてカモ。
思わず飛び出して彼女をヘンなヤローから助けたコトで、オレは彼女と知り合うコトが出来た。
ついでに飛び出してきた車から庇うってコトでポイントを稼いだと思ったら・・・今まで見たコト無いような可愛い顔して彼女が笑い出した。
ナニに対して笑ってるのか、それがオレを見て笑ってるのでも全然構わなかった。

今まで頭にあった泣き顔の彼女が・・・初めて笑顔を見せてくれた。





そんな彼女を見てちょっといつものペースを取り戻したオレはさり気なく彼女をお茶に誘い、見事オッケーを貰った。
いつも行くような裏通りにある店じゃなく、大通りに面したオープンカフェへ。
ついさっき知らないヤローに怪しい店に連れ込まれそうになったんだ。
その直後にオレみたいなヤツからの誘いを受けてくれただけでも儲けモンだろ?
だから不安にさせないよう明るくて、誰からも見えるような場所の方が安心できるだろうって思ったんだよナ♪



・・・こんなに相手に気遣うナンパ、初めてだゼ。





注文したコーヒーが来てから、オレは改めて自己紹介をした。

「オレは沙悟浄、良かったら名前教えてくれる?」

「あ、はい。あた・・・私はです。」

「へぇ・・・チャンか、可愛い名前だな。」

いつもしているようにそう言うと・・・何てこった、彼女の顔が耳まで真っ赤になって俯いちまった。
今までならそんな態度するヤツなんてゴメンだとばかりに、この場でサヨナラするのに・・・彼女だとそんな仕草すらバリ可愛く見えてオレの心臓が飛び跳ねる。



――― オレ、飲み終わるまで冷静でいられるか?



それでも折角つかんだチャンスを逃したくなくて一生懸命ポーカーフェイスを装い、世間話を交えながらさり気なく彼女の情報を聞きだすべく話を進めた。





「へぇーOLサン。」

「はい、今日はお休みだったので気分転換にウィンドーショッピングに来ました。えっと悟浄さんは?」

「悟浄でいいって。」

「でも・・・初対面ですよ?」

「もう知り合いだろ?お互い名乗ったし、悟浄って呼ばれた方がオレも嬉しいし。」



・・・ヤベ、ちょっと軽すぎたか?



普段と違う相手って言うのは案外難しい。
それも今までと正反対のタイプだから勝手が掴めない・・・しかもこれ逃したら後が無い崖っぷちの相手。
名乗っちまってるから、今度街で会えば声をかけて貰えるか無視されるかのどちらか・・・。



引き攣る笑顔で彼女の口から出る言葉を待っているオレって・・・ひょっとして馬鹿?



そんな気持ちを知らない彼女は暫く考え込むような顔をして、チラリとこっちを見て口を開いた。

「・・・慣れるまで悟浄さんじゃダメですか?」



死刑執行は・・・延期された。



内心溢れた冷や汗を拭いながらオレは、ニッコリ笑顔で頷いた。

「全然オッケー♪」

「ありがとうございます。」

同じように笑顔で礼を言う彼女。



・・・礼を言うのはこっちの方だよ、チャン。










先はまだ見えないけど、でも今まで広がっていなかった未来が見えてくる。

――― 彼女と共に歩む未来が・・・





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