10.空回り











「よっしゃ・・・今度こそ・・・」

携帯電話の一番最初に登録されている名前を呼び出し、あとは発信ボタンを押すだけ・・・ナンだけど・・・

「だぁーっ出来ねェ!!」

叫びながら携帯をベッドの上に放り投げて、そのまま床に仰向けに倒れる。

「・・・なんで電話の一本も出来ねェんだよ。」

いつもならヒマさえあれば誰かの携帯にメールを送ってデートの予定を取り付けているのに・・・彼女に対してはそんな気軽な真似が出来ない。
今までと違った行動を取るたび、頭の中にはダチに言われた不吉な単語が駆け巡る。





――― 初恋 ―――



「だーっから違うって言ってんじゃねェかよ!!」

誰に言い訳するわけでもなく声を上げ、髪を振り乱して暴れていると雑誌の山に手がぶつかった。

「どわっっ!」

お約束のように崩れてくる雑誌の山。

「・・・厄日?」

そりゃ積んでたオレが悪いケド?だからって人の顔めがけて崩れて来るコトねェだろ!
崩れた本に半分身体を埋められながらもそのままぼーっと天井を見つめる。





ずっと気になっていた彼女と話が出来るとは思わなかった。
その上、ちょっとした経緯で知り合いになってメールアドレスを交換し・・・携帯の番号まで手に入れる事が出来た。

あまりに話がうますぎて今まで電話する事が出来なかったが、今日短気のバイトが終わって財布の中身が人並みになった瞬間・・・彼女に電話してみようかという気になった。



なったんだケド・・・



「中々かけらんねェんだよな、コレが・・・」

でっかいため息をつきながら顔に落ちてきた雑誌に手を伸ばした瞬間、ベッドの上に放り投げた携帯が小さな振動を伝え始めた。

「・・・まさか!」

ついさっきまでバイト中だったからマナーモードに切り替えていた。
ひょっとしたら彼女からの電話かもしれない!そう思って慌てて本の山から抜け出し、もつれる足で携帯に手を伸ばしてディスプレイを見た瞬間・・・オレの中の期待はあっという間に泡となって消えた。



ディスプレイに書かれていた名前は・・・猪八戒、オレの高校時代からの友人で多分・・・親友?



「・・・無視。」

昔っからアイツに関わるとロクな事が無い。
またうまい話に乗せられてこれでもかってほどこき使われちまうに決まってんだ!
そう思ってマナーモードで震え続ける電話を枕の下に放り投げて、雑誌を広げて読み始めたのに、アイツからの電話は一向に切れる気配が無い。
つーか寧ろ時間が経てば経つほど妙な気配を感じ始めた。



忘れてた、アイツの頼みを断るとその次が大変だと言うコトを・・・。



諦めて携帯に手を伸ばすとひとつ深呼吸してから電話に出た。

「・・・お〜ワリィな風呂入ってた。」

「お忙しい所すみません、急なんですけど明日ヒマですか?」

こっちの話少しは聞けよ・・・とは言え、出なかった事を突っ込まれなかっただけマシか。
取りあえず八戒の機嫌を損ねないよう話の内容を聞いてみる。

「ナンで?」

「どうしても明日、届けていただきたい書類があるんですけどいつものバイク便の人がお休みなんです。」

「・・・ンで?」

「悟浄、バイク持ってますよね?」

いやぁ〜な予感。

「ひょっとしてオレに運べ・・・と?」

「勿論お礼はキチンとお支払いしますよ。」

目の前にいるわけじゃないのに、思いっきり笑顔で笑ってる八戒の顔が見える。
断ったりしたらこの次会った時ナニ言われるか分かったモンじゃねェな。
どうせチャンに電話も出来ないし、これがオレの運命ってヤツだろうな。

「オッケー、分かった。お前ン家行けばいいんだな。」

「えぇお願いします。」

携帯電話を切って再び彼女の名前を画面に呼び出す。
何度も何度も繰り返すけれど、決して発信ボタンを押す事は無い。
動いても動いても意味の無い行動。





こんな情けないヤロウにどうやって活を入れればいい?





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