11.悲しい日











、これ至急で打鍵して!」

「はーい。」

悟浄さんとお話をして、あれから一ヶ月経った。
お互いに携帯の番号とメールアドレスを交換して、実は・・・ちょっとだけ期待していた。
もしかしたら電話がかかってくるかもしれない。
メールが送られて来るかもしれない。
そう思ったら昼休みやちょっとした休憩時間にすぐメールチェック出来る様に、携帯を持ち歩くようになった。





最初の一週間は・・・ドキドキした。
かかってくる電話が全部悟浄さんからのような気がして、電話を取る前にいつも心臓がドキドキしていた。



次の一週間は、期待半分で電話に出ていた。



そして今は・・・微かな期待を残して携帯を机に置いている。
悟浄さんの名前はちゃんと登録してあるのに、ディスプレイにその名前が出てくる事は無い。
ため息をつきながら光に頼まれた伝票を打鍵していると、ポンッと誰かに肩を叩かれた。

さん、それが終わってからでいいんだけどこれを庶務課に持って行って貰える?」

「はい。」

光の伝票をとっとと終わらせて、気分転換もかねて課長から預かった書類を手に庶務課へ向かった。

別階にある庶務課へ向かう為エレベーターに乗り込んだ瞬間、どっと疲れが出て思わず壁に寄り掛かってしまった。

「はぁ・・・疲れた。」

電話が鳴るのを期待して夜更かししたり、もしも悟浄さんから電話が来たらどうしようなんてはしゃいでたもんなぁ最近。
気持ちを切り替えて今度の休みは何処かに出かけよう。
そうやって何とか気分を落ち着かせた所でちょうどエレベーターが庶務課のある2階へ到着した。
反動をつけてエレベーターを降りて廊下を曲がった瞬間、目の前が真っ暗になった。

「・・・え?」

庶務課の隣にある会議室の前で美人で有名な花喃さんと・・・ずっと気になっていた悟浄さんの姿が見えた。
付き合ってる男性がいるって噂は聞いた事があるけれど、まさか・・・まさかそれが悟浄さんなの?

手に持っていた封筒を落とさないようしっかり握りしめて、思わず陰に隠れて二人の様子を伺う。気軽に男性と話をしないと言われている花喃さんが、楽しそうに微笑みながら悟浄さんと話をしている。
悟浄さんもあたしと一緒にいた時と違って凄く自然に・・・笑ってる。



――― 胸が、痛い。



「・・・頼みますよ、花喃さん。」

「しょうがないわねぇ・・・今日だけよ?」

「このお礼は絶対します。」

「それじゃぁ今度お買い物、付き合って貰おうかなぁ?」

「花喃さんの頼みならこっちからお願いしたいっすよ。」

「やだ・・・悟浄くんってば・・・」

親しげに話す二人の会話をこれ以上聞きたくなくて、あたしは慌てて庶務課へ飛び込んだ。
そして課長からの頼まれ物をすぐ側にいた人に手渡すと、その足で更衣室へ向かう。
就業中という事もあって電気のついていないロッカールームは静かで、自分のロッカーの前までたどり着くと崩れるようにその場に座り込んだ。

「・・・やだ、何で・・・」

ポロポロ零れだす涙を受け止めながら、あたしは膝を抱えて泣き出した。










恋人じゃない、友達でもない。
ただ一度お茶を飲んで電話番号を交換しただけの仲なのに

どうしてあたし・・・泣いてるの?





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