14.オーバー ザ レインボウ











「・・・なぁ〜にしてんだろ、オレ。」

八戒に頼まれた仕事は終わった。
なのにオレは未だとある会社の前にある小さな公園にバイクを止め、煙草をふかしている。





花喃さんにチャンの勤めている部署の場所を聞いている時に見つけた彼女の背中。
後を追って暫く更衣室の前で待ってたけど、女子更衣室の前で男がずっと待ってたら怪しまれるのは当たり前。
あっという間に警備員に捕まって外にホッポリ出された。
しょうがなく外に出ようとした瞬間、廊下を歩く彼女の姿を見つけて慌てて中に戻ろうとしたら・・・やっぱり警備員に止められた。
忘れモンしたって言っても一度怪しまれた人間は中に入れてもらえない。
・・・だから嫌いだゼ、こんな警備が厳重な会社!
ブツブツ言いながら外に出てメットをつけてエンジンをかけて・・・やめた。
そのままバイクを押して近くにあった公園に止めるとメットを外しハンドルにかける。



彼女の就業時間まで・・・あと1時間。















時計は既に6時を回っている。
花喃さんが耳打ちしてくれたチャンの会社の就業時間は5時・・・残業か?
既に持っていた煙草は吸い尽くし、足元は吸殻でいっぱいになっている。
本当だったらすぐそこの建物に見える売店で新しい煙草を買い足したいのに・・・その間に彼女を見失ったらと思うと動く事が出来ない。

「ほんっとうにナニやってんだ?オレ・・・」

ガシガシと頭をかきながら、それでも視線はまっすぐ彼女が出てくるであろう会社を見つめる。



花喃さんと話をしている時に、チラリと見えた横顔。
小さくて、どこか守ってやりたい気になる・・・背中。
いつの間にこんなに彼女の事を気にかけるようになったのか、自分でも分からない。



「いないかもしンねェだろうが!」

足元の土を蹴りながら、それでも人の声がすると反射的にそちらを振り向く。

「ったく、やってらんねェよ・・・マジで。」

いるかいないかも分からない相手、そしていつ出てくるかも分からない。
それを・・・こうして待っている自分がおかしい。

「今まで待たせるの専門だったんだけどナ。」

今更ながら今までのオンナ達の我慢強さに敬意を表したくなってきた。
当たり前のように遅れて現れ、軽く謝っていつも同じデートを繰り返していた。

「悟浄反省。」

バイクに寄りかかるようにして沈みかけている夕日を眺める。
暗くなりかけた空を小鳥達が群れをなして飛んでいる。

「・・・オカエリ、か。」





もしもオレが鳥だったら、すぐにあの門を越えて彼女の元へ舞い降りるのに・・・
彼女に何かあればすぐに飛んでいけるのに・・・
今ここにいるオレには、側に行く為の翼もなければ彼女に声をかける権利もない。





たったひとつの門と、両脇にいる警備員によって阻まれた場所。
そこには何よりも大切な女性ひとがいるのに


今のオレは ――― 何も出来ない。





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