15.それもひとつの愛のかたち











「タクシー呼ばなくて大丈夫なの、さん。」

「はい。ご迷惑おかけしました。」

誰もいないのをいい事にベッドで一人泣いていたあたしは、戻ってきた医務室の先生に名前を呼ばれて目が覚めた。



・・・いつの間にか泣きつかれて寝ちゃったんだ、あたし。



赤い顔をしているあたしを見て先生はすぐに体温計を持って来てくれたけどあいにく熱は無かった。

・・・当たり前といえば当たり前。
泣きすぎて顔が赤くなってるだけなんだもん。

だから心配してタクシーを呼ぼうとした先生に断りを入れてすぐに医務室を後にした。





「あーもう7時か・・・」

腕時計で現在時刻を確認してから更衣室の暗証番号を入力し、中に入る。
電気をつけると、あたしのロッカーに何か小さな紙が挟まっているのに気付いた。

「?」

そっと掴んで抜き取ると、それは可愛らしいキャラクター便箋で何か走り書きがされていた。
こんな事をするのは・・・光しかいない。
自然と口元がほころび、メモを開くとそこには『何かあればすぐ電話!』と太マジックで書かれているだけだった。

「馬鹿だなぁ折角のデート、邪魔するわけないのに・・・」

今日は久し振りにデートだとお昼に話していたのを思い出す。
遠距離恋愛をしている光にとってデートは月に一回あるかないかだ。
そんな大切な時間なのに・・・あたしの心配しなくてもいいのに。

「でもそれが光のいい所・・・だもんね。」

取り敢えず今も心配していると申し訳ないので、無事家に帰って休む事にするという内容のメールを送った。
それからロッカーを開けて皺を伸ばすように制服をハンガーにかけて今日着てきた服に着替える。



医務室で泣くだけ泣いて、その後眠ったら・・・少し頭がスッキリした。
少なからず悟浄さんに恋心を抱いていたあたし。
だから悟浄さんに花喃さんと言う彼女がいる事を知って・・・ショックを受けるのは当たり前。

でも、あたしはまだ悟浄さんに告白したわけじゃない。


まだ・・・友達になる事を断られたわけじゃない。



側に ――― いる事を断られたわけじゃない。




それならば・・・まだ、見つめていてもいいんじゃないだろうかと思い始めた。

「・・・だって、まだあんまりお話してもいないのに失恋だなんて悲しすぎるもんね。」

恋人のいる相手を想い続けるのもどうかと思ったけど、折角芽吹いた恋心を急に摘み取る勇気もない。
ロッカーを閉めて、そのまま視線を隣の列の一番奥にある花喃さんのロッカーへ向ける。

「ごめんなさい、花喃さん。」

あたしは・・・悟浄さんの事が好きです。
でも、絶対この想いは悟浄さんに言いませんから・・・もう少し、もう少しだけあの人とお話をさせて下さい。





悟浄・・・と呼べるようになれば、きっといいお友達になれるはずだと信じているから。
だからもう少しだけ、この想いを抱き続けるのを許して下さい。





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