18.帰り道











「・・・おっ!発見!!」

7時を過ぎた所でビルから一人のオンナが出てきた。
それがずっと待っていた彼女だと思うと自然と身体が熱くなる。

「っと、煙草はナシ!」

吸いかけの煙草を地面に放り投げて勢い良く踏みつけると、バイクをそのまま置いて彼女の進行方向へ回り込む。



――― ようやく、会えた!



その喜びでオレは大切な事を忘れていた。
あの時見た背中は・・・小さく震えていたのだというコトを・・・





声をかけた彼女はなんだか複雑そうな顔をしていた。
ずっと考えていた言葉も彼女の耳には届かなくて、そのまま走り去ろうとする彼女が転びそうになって手を掴んだら・・・その手を振り払われた。

「もう離して!」

一番見たくなかった、彼女の泣き顔。
そしてオレの事を嫌っているかのような、体全体での拒絶。



――― ナニがどうなってンだ?



オレの中で何かが音を立てて崩れていく。

電話できない
メールも気軽に打てない
デートにも誘えない・・・
初恋ってのは本当に厄介だゼ。

――― 『初恋』という言葉にいつの間にか縛られていた自分に反吐が出る。



「・・・ごめんなさい、帰ります。」

頭を下げてオレの前からゆっくり立ち去ろうとする彼女。



――― 待てよ・・・待ってくれ!
オレはまだナニも言ってない!





初めて会った時から、気になっていた
一度話をした時の笑顔が忘れられない
キミの柔らかな声が・・・忘れられない
考えているだけで胸が熱くなって、眠れないなんて経験初めてだ。

どうせ叶わぬ想いなら、せめてキミに伝えさせて欲しい。
最初で最後のオレのワガママ・・・チャンを苦しませるかもしれないその一言を、言わせて欲しい。

あぁそうだ・・・今なら風に乗ってこの声が彼女に届くかもしれない。
届かなければオレの想いは儚く散ったってコトにしちまうさ。





「・・・チャンが、好きだ。」



ひょっとしたらオレは泣きそうな顔をしていたかもしれない。
オレの初恋の相手は・・・足を止めてゆっくり振り返ってくれた。
その顔からさっきまで感じられて拒絶はなく、ただ信じられない言葉を耳にしたという表情に変わっていた。



まだ、間に合うか?
この手に彼女を抱きしめるコトは・・・出来るのか。

じっと彼女の目を見つめながら、一歩・・・また一歩と近づいていく。
手が届く距離まで近づいても彼女はオレの目をじっと見つめたまま。



――― あぁ、カミサマ










チャンが・・・好きだ。」

そっと彼女を腕の中に閉じ込めて消え入りそうな声で囁く。

今まで色んなオンナへ囁いてきた愛の言葉なんかナンの意味も無い。
ただ彼女へ伝えたいのは『好き』というこの想いだけ・・・





もう、これだけで十分だ。
オレの初恋は・・・





BACK          Top          NEXT→19