19.君を待つ
「よ、オツカレ♪」
「悟浄さん!今日も来てくれたんですか?」
会社前の公園でハトにポップコーンをやりながら座っている彼の姿を見つけて走っていくと、ハトが慌てて空に飛んで行った。
そんな中でも悟浄さんはずっとあたしを見ていてくれる。
ど、どうしよう・・・凄く、嬉しい。
そんなあたしの心情なんかお構いナシに、悟浄さんは更にあたしを喜ばせてくれる。
「チャンの可愛い顔見たくて待ってた。」
「・・・っ!」
「いつまでたっても慣れねェな。」
「・・・は、はい。」
あーもう!悟浄さん呆れてるよ、きっと。
1週間毎日同じような台詞を言われてるのに、そういう言葉に免疫の無いあたしはいつも顔を真っ赤にしてしまう。
のぼせた頭を冷やすように両手で顔を仰いでいたら、悟浄さんが楽しそうに笑いながらメットを差し出してくれた。
「ほら、乗れよ。送ってやる。」
「うん!」
1週間前、最悪の日になるはずだった日に・・・悟浄さんに告白された。
花喃さんっていう素敵な恋人がいるのに何言ってんの!?と思ったけど、その辺からもうあたしの勝手な想像が暴走してたみたいで・・・ううっ馬鹿みたい。
・・・告白された後、泣きながら花喃さんの事を尋ねればあっさり友達のお姉さんだと教えられた。
それでも信じられないという顔をしていたら、大きな声で悟浄さんはこう言った。
「花喃さんは確かに美人で理想の女性かも知んねぇケド、アイツと兄弟になるくらいなら死んだ方がマシだ!!」
握り拳をしながらそう断言する悟浄さんを見ていたら涙は自然と止まった。
それにしても・・・そんなに嫌がられる悟浄さんの友達って一体どんな人なんだろう?
「あのさ・・・」
「はっはい!」
家について悟浄さんにメットを返した瞬間、声をかけられ思わず驚きの声を上げる。
「明後日の日曜・・・ヒマ?」
「え?」
「どっか・・・行かねェ?」
バイクのハンドルに両手を置いてその上に顎を乗せて、ちょっと照れくさそうにそう呟いた悟浄さんはいつものカッコいい悟浄さんとどこか違って・・・初めて可愛いって思えた。
だからあたしは今日一番の笑顔で頷いた。
「はい!」
会えば会うほど好きになる。
声を聞いて、話を聞けば聞くほど毎日会いたくなる。
「つーいた♪」
いつも悟浄さんはバイクを運転しているからたまには電車に乗ってどこかへ行こうという事でお互いの中間の駅で待ち合わせをした。
「・・・早過ぎちゃった。」
時計を見るとまだ待ち合わせ時間より15分も早い。
一応周囲を見渡して悟浄さんの姿を探すけど、まだ見当たらない。
「そういえばここは・・・」
待ち合わせをする時はあまり考えてなかったけど、今いる場所とちょうど反対側の出口は・・・あたしが前の彼氏と別れた場所でもあった。
あの時は悲しくて見えない何かに押しつぶされそうな気持ちでいっぱいだったけど・・・今は別の気持ちでいっぱいになっている。
「・・・あ」
駅の方からキョロキョロしながら歩いてくる、ひとつ飛び出た真っ赤な頭。
「悟浄さん!」
「おー♪」
あたしの姿に気付くと手を振ってまっすぐ歩いてきてくれる。
周りの人が振り返らずにはいられないほど、とびきり素敵な笑顔と一緒に・・・
「遅れたか?」
「ううん。あたしが早く来すぎちゃったから・・・」
「じゃ、ちょっと早いけど行くか?」
「うん!」
そう言って並んで歩く町並みは、いつもと同じはずなのにどこか違って見えた。
・・・あぁそうか、歩いている人が違うんだ。
チラリと隣へ視線を向けると、鼻歌を歌いながら歩く・・・彼がいる。
あたしはずっと前から、一緒に歩く誰かを待っていた気がする。
そしてようやく悟浄さんを ――― 見つけた。