20.仲良し











「なぁ八戒!見ろよ♪」

オレは携帯に貼ってあるプリクラを隣に座っている八戒の目の前に差し出した。

「・・・もう何度も見ましたよ。」

「良く見たのか?」

「えぇ穴が開くほど。」

キッパリ言い捨てる友人・・・ったく、ノロケ甲斐のねェヤツ。
チッと舌打ちをしながら携帯を折りたたんでしまうと、窓から見える階下の駅の改札を眺める。
そんなオレの様子を見て読んでいた本を閉じると、八戒はメガネを外して楽しそうに目を細めた。

「それにしても今回は随分ご執心なんですね。」

「今回とか言うな。」

確かにお前には何度も交際相手という名のオンナ達を紹介してきたけど、今回は全く別モンなんだからな!

「いつもそう言っているじゃないですか、貴方は。」

「だぁ〜から、今回は今まで以上にマジだっての!!」

「・・・花喃から聞いてますよ。」

「げっ・・・」

そうだった。
彼女と知り合うきっかけとも言える現場にいたのは・・・ナニを隠そうこいつの美人なネェチャン、花喃さんだった。

「確か僕はお願いした書類を・・・花喃のいない部署の責任者の方に渡して下さいって言いましたよね?それなのにどうして花喃が貴方の事を知っているんでしょう?」

「それは・・・その・・・わ、渡す相手が見当たらなくて
代わりに・・・

イヤぁな汗をかきながらしどろもどろ花喃さんに書類を渡した経緯を説明する。

「貴方が僕の家を出てから時間を逆算して相手の方に連絡入れたんですけど?」



だぁーっその笑顔止めろっ!マジ怖いって!!



内心冷や汗だらだらの状態になった時、ふと救いの女神が視界に入って慌てて席を立つ。

「っと、彼女来たから迎えに行ってくるわ!」

「じゃぁこの話はまた今度 ゆっくり しましょうか。」

・・・ハイ。

取り敢えず延期された死刑執行に胸を撫で下ろし、待ち人の元へ向かう。





「あ、ごめんなさい遅れちゃって・・・」

「そんなに遅れてねェよ。あそこの店で待ってるから・・・紹介するな♪」

「はい!」

ちょっと緊張した面持ちでオレの後ろをヒヨコみたいについてくる彼女も可愛いけど、そんな強張った顔してたらいつもの可愛さが半減しちまうゼ?

チャン・・・」

「は・・・いぃぃ〜

オレは振り返った瞬間チャンの頬を両手で軽く引っ張った。

ごひょうはん?(悟浄さん?)」

ビックリして大きく見開いた目、たどたどしくオレの名前を呼ぶ声。



・・・ヤバ、スッゲー可愛くて今すぐ抱きしめちまいそう。



それを何とか微かにある理性を総動員させて押しとどめる。
こんな所でそんな事したら、上にいるヤツにあとでナニ言われるか分かったモンじゃない。

「別に親の敵や上司に会うワケじゃねェだろ?もっとリラックスしろって。」

「でも・・・」

「大丈夫。チャンはそのまんまでじゅーぶん可愛いから・・・ナ?」

そう言って額を軽く指でつついてやると、ようやく彼女の緊張がほぐれた。

「そんじゃ行くか。」

「はい!」










「は、初めましてです。」

「こちらこそ初めまして、猪八戒です。」

チャンと視線が合うと爽やかな笑顔を浮かべ微笑みかける。
男に免疫のない彼女が八戒の笑顔を見て頬を赤らめるのはある程度予想してたケド・・・なんか無性に腹立つな。

「・・・おい、八戒。」

「はい?」

「見るな。」

がしっとチャンを両手で抱きしめて、八戒から見えないようチャンを隠す。

「ごっ悟浄さん!?」

「貴方が紹介するって言ったんじゃないですか。」

「お互い自己紹介終わったろ?もうチャンの事、頭のイイお前なら覚えたよな?」

「えぇ・・・それは・・・」

「じゃぁ紹介オシマイ!

自分でも馬鹿みたいだと思うけど、オレ以外の男が彼女を見るのが何だか腹立たしかった。
そんなオレを見るのは恐らく初めてであろう八戒は、心底楽しそうに笑いながら荷物を持って立ち上がると、オレの腕の合間から顔を出しているチャンに再度微笑みかけた。

「こんな人ですけど、悟浄をお願いしますね。さん。」

さん言うな!!」

「子供みたいな人ですけど、根は悪い人じゃありませんから・・・」

「評判落としてどうする!!」

「何かあれば相談して下さい。携帯の番号は悟浄が知っていますから。」

「誰が教えるかっ!!」

「あ、悟浄。ここは僕が奢りますよ。」

「・・・へ?」



こんなコトしでかしたのに奢るって・・・マジ?



突然のコトに驚いて声を無くしていると、八戒は楽しそうに笑いながらオレの腕の中にいる人物・・・チャンを指差した。

「純情な彼女をそんな風に扱うのは感心しませんね。」

「・・・っだぁっチャン大丈夫か!?」

「は・・・はいぃ〜」

顔を真っ赤にして心臓を押さえるような仕草をしているチャンに慌ててオレの飲みかけのアイスコーヒーを渡す。
顔には出してないが無茶苦茶焦ってるオレの背中にアイツの声が聞こえた。

「悟浄!」

「あぁ?」

このクソ忙しい時になんだってんだ!?

「ご馳走様でした♪」

階段から微かに見えるのは・・・アイツが持っている携帯電話。
何で携帯をこっち向けてるんだ???



後日、オレの友人達が皆同じ写真を持っている事に気づいた。
それはオレがチャンをしっかり抱きしめて、八戒を追い返した時の写真。
怒るよりも何よりも、プリクラ以外にチャンと映ってる写真があるのが嬉しくて・・・思わず説教食らうのも忘れて八戒にその写真を転送してもらった。










――― 携帯の待ち受け画面で、今もオレと彼女は抱き合っている。





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