22.うたごえ











「悟浄さん!こっちこっち!!」

「待てって!そんなに走ると・・・」

転ぶぞって言う前に、オレの可愛いカノジョは足元の小石に躓いて見事に転んでくれた。



――― 予想を裏切らない反応ありがとう



そんなコトを思いながら手を差し出すと、彼女は苦笑しながらオレの手を掴んで立ち上がった。

「弁当、オレが持ってて正解だったろ?」

「ですね。」

今度は転ばないようしっかり手を繋いで、やってきたのは都内のちょっと大きめな公園。

「この辺にすっか。」

「はい!」

チャンがカバンの中からシートを取り出して芝生の上に引いて弁当を広げる準備をしてる間に、オレは近くの自販機へ茶を買いに行った。

あ〜オレの知り合いが見たら絶対腰抜かすな、コレ。
真っ昼間に家族連れが行きそうな公園に彼女と二人で遊びに来て、尚且つその女の為に茶を買ってる・・・自分でも思うケド、本当にこれオレ?

けど、最近そんな自分がやけに心地よく感じるコトがある。
きっとそれは一緒にいる・・・チャンのおかげなんだろうな、多分。

そんなコトを思いながら彼女の元へ戻ると、既に準備万端といった様子で自らの場所を知らせるべく大きく手を振っていた。
そんな姿を見て自然と緩む頬を手で押さえ、オレも彼女に向かって軽く手を振る。





「スッゲ・・・」

「えへへぇ〜頑張りました!」

シートの上に広げられているのはテレビや雑誌で良く見られる『彼女の手作り弁当』の品々。
おむすび、から揚げ、卵焼き、サラダに煮物に・・・こんなに作るの大変だったンじゃねぇの?

チャン・・・これ・・・」

「えっと味見は万全です!悟浄さんが好きな物分からなかったので自分が作れる範囲で作ってきたんですけど・・・」



いや、そでなくって・・・オレが言いたいのは・・・



「1つでも悟浄さんが気に入ってくれるといいなって思いながら作ってたらこんなになっちゃいました。」



・・・オレ、このまま何処まで彼女に惚れてくのかバリ不安。
知れば知るほど好きになって、こんなオレの為に弁当作ってくれて・・・十分すぎるほど幸せだ。



「悟浄さん、まだお腹空いてませんか?」

「あ?いんや、もう腹ペコ。いつ食っていいのかタイミング計ってた。」

それと同時にオレの腹の虫が勢い良く鳴いてくれた・・・ナイスタイミング。

「な、食っていい?」

「はい!どうぞv」

チャンがニッコリ笑顔で差し出してくれた紙皿と箸を受け取り、取り敢えず手近にあった卵焼きに手を伸ばし口に放り込んで・・・驚いた。
コンビニや総菜屋で買ってきた物とは全然違う・・・何だか温かくて甘い卵焼き。
今まで食べてきた食い物はなんだったのかって思う程、それは美味く感じた。

「・・・」

「ど、どうしました?」

「・・・美味い。」

「え?」

「ナニコレ!?チャン料理の天才?!」

まるで坂道を転がるボールのような勢いで次々料理に手をつけていく。
今までメシなんてただの飢えを凌ぐだけの物だと、温めて食えば手料理もコンビニ弁当も同じだって思ってた。
あとは一人で食うより二人、三人・・・大勢で食う方が美味いってくらいか?

今日はたった二人きり、しかも目の前の料理は冷めている。
それなのに胸に染みるような、何だか温かい気持ちになるのはなんでだ?

「げほっっ」

「悟浄さん、そんな急がなくてもなくなりませんよ?」

むせたオレにお茶を差し出す彼女・・・慌てて受け取って一気に飲み干し一息つく。

「美味い、チャン。」

「え?」

普段なら面と向かってこんなコト言うの照れくさいケド、頑張ってくれたチャンにどうしてもこの言葉を伝えたかった。

「こんな美味いメシ食ったの初めてだ。ありがとな。」

「・・・悟浄さん。」










目の前にある食事からは彼女の想いが伝わってくる。
こんな愛情こもったメシをオレは今まで食べたコトがない。
ひとつひとつ口に入れ、胃におさめるたびに・・・オレの心は喜びの声を上げていた。





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