23.こっち向いて
物凄く早起きして、かなり多めに作ってきたお弁当。
それが今・・・全部空っぽになってあたしの目の前にある。
男の人がどれくらい食べるのか分からなくて、悟浄さんの好きな食べ物も分からなくて・・・質より量!って感じで大量に持って来たのに・・・それらが全部目の前でお腹をさすりながら芝生の上に寝転んでいる悟浄さんのお腹に入ってしまった。
「あ゛〜・・・もうなぁ〜んも入らねェ・・・」
「食べすぎですよ。残してよかったのに・・・」
「折角チャンが作ってくれたモン残すなんて勿体ないだろ?」
悟浄さんがこんなにお腹一杯で苦しそうな顔してるのに・・・あたし今すっごく嬉しい。
食べて貰えるだけで十分だったのに、悟浄さんは箸をつけたもの全て『美味しい』と言って食べてくれた。
ひじきの煮物にいたってはタッパを抱え込んで離さないくらい気に入ってくれたみたい。
まるで子供のような顔で次々箸を伸ばす悟浄さんは、普段と違って凄く可愛く見えた。
でもそんな悟浄さんの表情がある物を口に入れた時、一瞬だけ変わった事に気付いたんだよねぇ・・・そして発見。
――― 悟浄さんは梅干が苦手みたい。
眉を寄せて一瞬固まったけど、あたしの視線に気付いたら何も無かったかのようにそれを飲み込んで再びおかずを口に運び始めた。
梅干が苦手だという事をあたしに気付かれないように頑張っているみたいだったから、梅おむすびはさり気なくあたしが食べてその他のおむすびが悟浄さんの手元へいくようにしてみた。
だからお弁当を食べていた悟浄さんが眉を寄せたのは梅おむすびの時だけ。
それ以外は終始笑顔で食事をしてくれた。
沢山あったタッパを片付けて、寝転んでいた悟浄さんの方を振り向けば・・・規則正しく上下に胸が動いてる。
「もしかして・・・」
そっと近づいてその顔を覗き込めば、いつもあたしの顔をまっすぐ見つめる瞳はしっかり閉じられていて、煙草をくわえる事の多い口は、微かに開いている。
「寝ちゃった?」
声に出さなくても分かる事なのに、つい声に出してしまった。
お腹一杯の食事のあと、芝生の上に寝転んで・・・オマケに今日の天気は快晴、風も殆ど無い。
「これじゃぁ眠くなって当たり前か。」
くすくす笑いながら悟浄さんの隣に腰を下ろして空を見上げる。
「うわぁ〜・・・眩しい。」
悟浄さんとのデートは、いつも楽しい。
あたしの知らない場所へバイクで連れて行ってくれたり、雑誌に載っているようなカッコいい場所にも連れて行ってくれる。
テレビで話題のスポットがあれば、すぐに次のデートコースに組み込んでくれる。
そんな所に連れて行ってもらった事の無いあたしはいっつも口を開けてビックリするばかり・・・で、いつも悟浄さんに笑われるんだよね。
ずーっとテレビや雑誌でしか見た事が無い場所に連れて行ってくれる悟浄さんにお礼がしたくて、自分が良く行く公園デートを提案してみた。
こんな子供みたいなデートはお断りって言われる事も考えたんだけど、悟浄さんはちょっと驚いた顔をしただけで、すぐにいつもの笑顔で頷いてくれた。
チラリと横目で隣を見れば、いつも恥ずかしくてすぐに目をそらしてしまう悟浄さんが気持ち良さそうに眠っている。
「・・・ヘンなの。」
普段は悟浄さんの視線が自分に向いていると恥ずかしくて直ぐ反らすくせに・・・こうして目を閉じてこっちを見ていてくれないと何だか寂しく感じる。
「・・・悟浄さん。」
完全に熟睡してしまっているのか、ピクリとも動かない。
ちょっと悔しくなって顔を近づけてもう一度名前を呼ぶ・・・でもやっぱり同じ。
芝生の上に寝転んで空を見上げている悟浄さんの横にうつぶせになって、耳元でこっそり名前を呼んでみる。
「・・・う」
すると眠っているはずの悟浄さんの体があたしの方へ向いた。
「!?」
起きてるの!?って思ったけど、目はしっかり閉じられてるし・・・目を覚ます気配も無い。
ただ単に寝返りをうった側にあたしがいただけ。
「び、びっくりした・・・」
至近距離にある悟浄さんの顔。
さっきまで空を見ていてあたしの方を見てくれなかったけど、今は・・・あたしの方を向いてくれてる。
いつもカッコいい悟浄さん。
でも今ここにいるのは、子供みたいに無邪気な顔して寝てる・・・悟浄さん。
まだ目を覚まさないでね?
もう少しだけ、このままあたしを見ていて・・・
あたしも貴方を・・・悟浄さんを見つめていたいから・・・