24.傍にいたい
「くしゅっ!・・・あ?」
肌寒さを感じて目を開けたオレが最初に見たのは、超至近距離で目を閉じているチャンの姿。
「っっ!?」
オレ、彼女にナニした!?
慌てて飛び起きて周りを見回すと・・・ちょっと先の道を家族連れが楽しそうに話しながら歩いていく姿が見える・・・ここは弁当を食ってた公園。
「・・・あ゛?」
寝起きで霞のかかった頭を動かそうとタバコを口にくわえ、ライターを取り出し・・・止めた。
隣を見れば、気持ち良さそうに眠っている彼女の姿。
折角寝てんだ・・・煙草の煙なんかで起こしちまうの可哀想だな。
ライターを胸ポケットにしまい火のついていないタバコをくわえたまま、ふと彼女の後ろにあるシートを見た。
シートに所狭しと広がっていた食べ物の器や皿は姿も形も無い。
ナニ?もしかしてオレ、食うだけ食って寝たってコト?
うっわ・・・サイテー。
口からポロリと煙草が落ちて芝生の上に転がった。
あんな美味い弁当を食わせて貰ったお礼に片付けくらいオレが全部やって、彼女には休んでもらおうと思ってたのに・・・先にオレが寝てどうすンだよっ!
自分の頭を自分で殴って、その痛みで頭を抱える・・・ホントオレって馬鹿。
今までオンナとのデートと言えば、流行のデートスポットや新しく出来た名所ってのがお約束。
だからチャンもそーいうトコ好きかと思って連れてったケド・・・どっちかっていうと彼女にはこんな風にのんびりする方が似合ってるかもナ。
「ってかそれぐらい聞けよ!」
チャンが自分から公園に行きたいって言ったのは初めて・・・つーか、自分の意思で言ってくれたのって今回が初めてだったんだよな。
それまではオレが行き先を言って、どうするって聞いたら頷いてくれたからそこへ行ってた。
・・・ひょっとして無理矢理つき合わせちまったコトもあった、か?
「あ〜どんどん悪いコト考えちまいそうだ。」
バリバリ頭をかいて、でかいため息をつく。
すると隣のチャンが小さなくしゃみをしたのに気付いた。
メシを食った時より日が傾いているし、ちょっと風も出てきたな・・・そろそろ退散しどきか?
そう思って彼女を起こそうと手を伸ばしたケド・・・おいおい待てよ、どうして触れねェんだよ。
肩先まで伸ばした手は見えない壁に阻まれているかのように数センチ先で止まり、肩に触れる事無く芝生の上に落ちた。
そんな自分に苦笑しながら着ていた上着を脱いで彼女の肩にかけてやると、微かにチャンの頬が緩んだ。
「・・・風邪ひくぜ、お嬢サン。」
横に寝転がり肘をついて眠っている彼女の顔をじっと見つめる。
・・・ンな可愛い顔して、安心しきった顔して寝られたら何にも出来ねぇじゃん。
誰にでもどんな相手にでも直ぐ手を出したこのオレがだゼ?
なっさけねぇの・・・。
この手に触れたい・・・抱きしめたい。
そんな欲求が自分の中に湧き出して溢れてしまいそうなのに、触れられない。
こんなオレを今までのオレを知るヤツが見たら何て言うだろうな。
でも、彼女だけは・・・チャンだけは、ナニがあっても大切にしたい。
短い付き合いじゃなくて、この先も・・・出来れば一生。
「うっわ〜オレって案外ドリーマーだったんだなぁ。」
はははっと笑いながら滅多に見られない愛しいチャンの寝顔を見つめる。
こんな無防備な彼女を見れるのは、後にも先にも自分だけであって欲しい。
チャンの一番近くにいるのは・・・オレであって欲しい。
そしてこの想いを彼女にも抱いて欲しい・・・と、思った。
そんな事を考えながら日が暮れて寒さで彼女が目を覚ますまで・・・オレは彼女の寝顔を飽きるコト無く見つめていた。