27.甘いことば
久し振りの連休。
丸一日眠って元気になったあたしの携帯に悟浄さんから電話がかかってきて水族館のチケットがあるから行かないか?と誘われた。
大好きな水族館、しかも最近元気の無かった悟浄さんからのお誘いとあって一も二も無く頷いた。
慌てて用意をして待ち合わせ場所へ向かうと、水族館の入り口で悟浄さんが待っていてくれた。
「・・・悟浄さん!」
「よっ。」
「すみません、待たせちゃって・・・」
「・・・いんや、待ってねェよ。」
あれ?なんだか悟浄さん、いつもとちょっと様子が違う?
いつもだったら・・・チャンがオレ待ってるのに比べりゃどーってコト無いって・・・とか言うのに。
様子の違う悟浄さんをチラリと見つめれば、あたしの視線に気付いたのかいつものように口の端をあげてニヤリを笑った。
「ナーニ見てんだよ。」
「あっす、すみません!」
うわわっ思わず凝視しちゃった!また笑われちゃうよぉ〜。
そう思って身構えたのに、予想に反して返って来たのは・・・優しく頭に置かれた手。
「・・・ほらチケット。失くすなよ?」
「は、はい。」
「ンじゃ行くか・・・水族館。」
そう言ってあたしの肩を抱き寄せた悟浄さん・・・その行動はいつもと同じ。
隣を歩く悟浄さんもいつもと同じはずなのに、何だかちょっと元気がない様な気がする。
悟浄さんの様子が気になったけど、久し振りの水族館という事に浮かれてしまったあたしは、率先してあちこちの水槽に駆け出してしまいそうになる気持ちを抑えるので精一杯だった。
中に入ったら丁度アシカのショーがやってると言うので小さな子供に混じってそれを見てから、人の少なそうな場所から水槽を見つつようやくこの水族館の目玉でもあるイルカの水槽にたどり着いた。
「悟浄さん!ほら、パンダイルカですよ!」
「ははっ見事に白黒だな。」
「でも可愛くって大好きですv」
「・・・オレも、好きだな。」
「!?」
そう言った悟浄さんの視線がちょうどあたしの方を向いていたから、心臓が止まりそうになった。
こっこれってあたしも好きですって言うべき?!
「あっあの・・・」
「お、あっちにいるのなんだ?」
そう言って悟浄さんはあたしの手を掴んで向かい側の水槽へ歩き出した。
・・・タ、タイミングって難しい。
「ははっでっけーカニだな。」
「そうですね。」
「食ったら何人前だろうな?」
「食べちゃうんですか!?」
水槽にへばりついているカニにその言葉が聞こえたのかどうか分からないけど、いいタイミングで横へ移動していくのを見てあたしは思わずふき出した。
「あははっ悟浄さんが変な事言ったらカニが逃げちゃいましたよ?」
「ははっマジで食うわけねェのにな。」
「そうですよね!」
「あ〜でもイイかも。」
「え?」
「今日の夕飯、カニ食いに行くか?」
今いるのは水族館、目の前にいるのは大きなタカアシガニ。
「カニだけじゃなくて美味い酒とつまみも欲しいよな。」
そう言いながら悟浄さんが歩いていく方向にはいわしがいたり、あじがいたり、金目鯛が猛スピードで泳いでいたり・・・身の危険感じてるワケじゃないよね、お魚さん。
そんな魚の気持ちなど露知らず、笑顔で手を差し出す悟浄さん。
「・・・チャン、腹具合は?」
「お腹すきました。」
差し出された手に手を重ねて出口に向かう。
それから悟浄さんと海鮮料理の店に行って、約束どおりカニとお魚をつまみに美味しいお酒を飲んで電車で家まで帰った。
あまりに楽しくて忘れてしまったけど、今日一日・・・悟浄さんがあたしの手をずっと掴んでいた事を家に帰ってから不意に思い出した。
しかもその力は、いつもよりずっと・・・強かった。