「結局分かったのは指輪が李家には無くて、馮祁(ヒョウキ)の実家の姚家のバァサンに貰ったってことだけ・・・」

すっかり日が落ちた頃、僕と悟浄はの待つ(正しくはの体がある)お寺へと戻り、先程荊藍(ケイラン)さんのご両親に伺った話をある程度まとめて三蔵達に報告した。

「こっちも似た様なモンだ。」

お寺に残った三蔵も、殆ど僕らと同じような情報を得ただけだった。

「ねぇ・・・」

「おい、悟空!そこの皿くれ。」

「これ?」

悟空は横にある取り皿を正面にいる悟浄に手渡した。

「三蔵、ご飯のお替り如何ですか?」

「いや、もういい。」

「それじゃぁ悟空、お替りいりますか?」

「いるいる♪」

「ちょっと・・・」

嬉しそうに僕の前に空になった器を差し出した悟空に、山盛りご飯をよそって手渡す。

「はい、どうぞ。」

「まだあるか?」

「悟浄もですか?良く食べますね・・・」

「オマエが食ってねェんだよ。」

僕の前の一向に減らない皿を箸で示されながらも悟浄から器を受け取り、残っているご飯をかき集めてその中へ入れた。

「もうお替りありませんからね。」

「ちょっとあんた達!!」

「どうしました?荊藍さん。」

座って食事をしている僕らを見下ろすように、荊藍さんは腰に手を当てて呆れ顔で此方を見ていた。

「何でこんな所でご飯食べてるの?」

「おかしいですか?」

「当たり前でしょ!?誰が見たっておかしいわよ!何で鏡囲んで食べてるのよ!!」

今僕らがいるのはが捕らわれてしまったと言う鏡の前。
詳しい位置関係を告げるのであれば鏡をお誕生日席として、鏡の両隣に僕と悟空、僕の隣が悟浄で悟空の隣が三蔵・・・そして荊藍さんの入っているの体は鏡からは死角となって見えない僕の後ろに控えてもらっている。

「別に鏡囲んで食ってるワケじゃねェよ。」

「うん。」

悟浄と悟空が同時に箸を止めた。
僕はにっこり微笑んで二人が言わんとする事を後ろにたっていた荊藍さんに告げた。

「僕達はと一緒に食事をしているんです。」

「・・・何、馬鹿な事・・・言ってるの?」

「馬鹿じゃありませんよ。はちゃんとそこにいるんですから。」

そう言いながら僕はすぐ側にある鏡に向かって「ね?」と言って微笑んだ。



僕は上手く笑えているだろうか・・・。



「まぁ残念ながらの分は既にこいつ等が食っちまってるがな。」

「あっ!そっか!!ゴメンな!」

三蔵の言葉を受けて悟空は今まさに口に流し込もうとしていた煮物の皿を、の前・・・鏡の前にそっと置いた。

「これウマイから、食ってな?」

「バーカ、こんなトコ置いとくと腐っちまってチャンが腹壊すだろうが。」

鏡の前に置かれた煮物の皿を悟浄がひょいっと取り上げ、その中身を箸で掴んで自分の口に放り込んだ。

チャンにはこんなんよりもっとウマイモン食わしてやるって。」

「そうですね、の好きな物いっぱい作って食べさせてあげますよ。」

「そっか・・・そうだな・・・ってじゃぁ悟浄!その皿返せよ!!俺が食ってたんだぞ!」

「手を離した時点でもうオマエのモンじゃねぇだろ♪」

「悟浄のモンでもないだろ!」

そうしていつもと同じ食事の風景が鏡の前で行われる。

「あーったく!テメェらメシぐらい静かに食えねぇのかっ!!」

そう言うと寺院の一室にバシッと言う痛々しい音が鳴り響いたが、それはいつもよりも少し大きく聞こえた。
やはりお寺というだけあって静寂な上、良く響きますねぇ。

「「いっつー」」

「やれやれですね。はい三蔵、食後のお茶です。」

「あぁ。」

「貴方達・・・おかしいわ。」

僕らの様子を鏡の横に立って眺めていた荊藍さんが呟いた。
そんな彼女の言葉に反応したのは意外にも・・・三蔵だった。

「ふんっ、テメェのものさしで測ってるんじゃねぇよ。」

いつものように懐からタバコを取り出すと、食後の一服とでも言うように火をつけ口に運ぶ。

「お前の目にどう映ろうが、俺達はこれが普通だ。」

「・・・そう、なの?」

助けを求めるかのように僕の方を見る彼女の表情は、困った時に僕の方を見るに良く似ていて・・・思わず苦笑してしまった。

「えぇ、大体こんなものです。あまり4人でいる事が少ないので、集まると大抵賑やかになってしまいますね。」

「大抵じゃねぇだろう。」

「そうですか?僕、にぎやかな食卓って結構好きですよ?」

「賑やかと煩いは違うと思うがな。」

「それもそうですね。」

「仲・・・いいのね。」



「「「「別に」」」」



声の大きさはまちまちだけれど、答えは同じ。
赤の他人から見れば何処からどう見ても仲のいい人間の集まりと思われる。
考えてみればそんな中にが自然に溶け込んでいるのは、案外不思議な事なのかもしれませんね。










食事も終わり目の前に並んでいた大量の空のお皿をお寺の方に片付けて貰うと、僕らは改めて荊藍さんに探している指輪の詳細を伺った。

「今分かっているのは荊藍さんが言った銀色で緑色の石がついた指輪と言う事だけです。他に何か特徴はありませんか?」

「・・・最近見たのは一回だけで、特に普通の指輪だったからあまり覚えてない。」

「何でその指輪探してるの?」

一番の基本である指輪を求める理由、それを悟空は床に寝転がりながら何気なく聞いた。
本来なら一番最初に聞かなければならない事・・・僕はそれを聞く事すら思いつかなかった。

「馮祁がその指輪に何かメッセージを書いたって言ったから・・・」

「メッセージ・・・ですか?」

「そう、婚約する前日。馮祁に呼ばれて久し振りに家に行ったわ。そこで馮祁は昔私が欲しがっていたお婆ちゃんの指輪を見せてくれたの。そしてあたしの左手の薬指にはめてくれたんだけど・・・サイズが大きくてブカブカだった。」

昔を懐かしむように穏やかな表情で話し始めた彼女の言葉を、誰もが口を開く事無く聞いていた。

「馮祁、少し困った風に笑ってこう言ったわ。『婚約の時に渡したかったけどこれじゃぁ無理だね。結婚式までにサイズを直して・・・荊藍へのメッセージと共にこれをあげるよ』って」

荊藍さんが少し潤み始めた目がゆっくり閉じられると、とてもを盾にとっているとは思えないほど綺麗な涙を流し始めた。

この人はただ純粋に愛する人からの贈り物を探しているんですね。

「しかしその後、馮祁の死やお前の死でばたついてしまい結局その指輪が何処にあるか分からなくなった、そう言う事か?」

三蔵の声を聞くとさっきまでしょんぼりしていたはずの荊藍さんが、キッと三蔵を睨みつけ床を手で叩いた。

「えぇそう言う事よ!私は馮祁からのメッセージが知りたい!指輪よりもそれが知りたいの!だから早く見つけて!!」

「荊藍さん落ち着いてください。もう少しその指輪が入っていたケースの色とか何か覚えていませんか?」

呼吸の荒い荊藍さんを宥めるように肩をポンポンと叩くと、驚いたように僕の方を振り返った。
何か悪い事をしてしまったんでしょうか?

「・・・。」

「荊藍さん?大丈夫ですか?」

「・・・平気よ。そうね・・・指輪の入っていた箱は、あたしが見たのはだいたい8センチ四方の生成りの箱の中に紺色のケースが入っていてその中に指輪があったわ。」

「それだけかよ・・・んな指輪その辺にゴロゴロしてるぜ。」

悟浄がこめかみを押さえながらため息をついた。

「なぁ、なんか他にねぇの!?名前書いたとかー、箱破けてるとか!!」

「・・・そう言えば小さい頃、馮祁の家に遊びに行った時にお婆ちゃんが私と馮祁が結婚したらこの指輪をあげるって言って・・・その印に、指輪の入っていた箱の裏に馮祁と一緒に名前を書いた・・・気が・・・」

「それは箱の裏か?」

「・・・多分。でもそれも10年以上も昔だから今も残ってるかどうか。」

「この間見た時確認してねェの?」

「その時は馮祁が持っていたから見てないわ。」

かなり情報が集まったとは言え、あと2日でそれを見つけ出すのはかなり難しいかもしれないですね。
自然と僕らの間を沈黙が取り巻き誰もが口を閉ざした時、鏡の横の壁を思い切り叩く音が聞こえそちらに視線を走らせた。

「とにかく探さなきゃダメ!貴方達が大切にしているあの子の為に・・・ね?」

そう言っての姿で冷たい笑みを浮かべた荊藍さんは、そのままゆっくり目を閉じると崩れるように側にいた僕の腕の中に倒れてきた。

「何故?まだ夜明けには時間があるはずなのに・・・」

「どう言う事だよ!幽霊も寝るのか!?」
平気なのかよ三蔵!!」

僕の腕の中にいるの手首をそっと掴んで三蔵が顔をしかめる。

「・・・ちっ、の体が弱ってやがる。」

「すでに影響は出ていると言う事ですか・・・。」

三蔵の後に続くように僕もの手首を持って脈を測ると、その音は少し小さくなっている気がした。



元々は此方の人間ではない。
体力の消耗も普通と同じに考える事は・・・出来ない。

「時間がありませんね。」





窓の外を見るとまだ空は暗いまま、月も沈んではいない。
を助ける為の時間は・・・徐々に無くなっていく。





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鏡を囲んで食事をする三蔵一行。
突っ込むのはそれだけではない(笑)
実は鏡があるのは仏像の置いてあるお堂の中だから・・・彼らそこで食事をしてる事になるんですよ。
食事を持って来る人・・・大変だったでしょうねぇ・・・(そう言う問題か!?)
ここら辺から荊藍が暴走してしまって、私の手に負えなくなりました。
だってこの人、勝手に喋るからどんどん設定変わっていったんですもん(TT)
それでも時間が無くなって来た事は分かりますでしょうか?
期限はあと少し・・・。