「三蔵様、そちらの方々は・・・?」

「先程言った者達だ。」

「さようですか・・・ではどうぞ此方へ。」

三蔵を先頭にあたし、八戒、悟空、悟浄の順にお寺の中に入る。
何だか修学旅行で行った京都のお寺みたい・・・とか思いながら物珍しそうにきょろきょろ周りを眺める。
天井の高い通路を歩いて行くと、目の前に大きな扉があった。
目的地は・・・ここ?
チラリと前にいる三蔵へ視線を向けると、三蔵は前を向いたままあたしに声を掛けてきた。

、お前はここから先、何があっても一言も口を開くな。」

「え?」

どういう意味なのか確認しようにも三蔵は既に目の前にある扉に手を掛けた状態で、しかも場の空気からそれを聞く事も出来なかった。まぁ喋らなきゃいいだけの事よね・・・とか考えていたけど、この後あたしはそれを後悔する事になる。





「おお、三蔵様!!度々ご足労を・・・」

「いや・・・構わん。」

「それで・・・三蔵様?此方の方々が・・・その・・・」

あぁ、どこかで聞いたことのある台詞。
三蔵以外はどう見たって仏道に帰依してるようには・・・見えないよねぇ、あたしもだけど。
きっとこの後言う台詞は決まってるんだろうな。

「下僕だ。」(キッパリ)

やっぱり・・・。

「下僕ー!?」

「勝手な事言ってんじゃねェぞ!テメェ!!」

「まぁまぁお二人とも落ち着いて。」

三蔵に飛びかかろうとする二人を八戒が笑顔でたしなめてる。
あたしも八戒の手伝いをしようと振り向いた所で誰かに肩を掴まれ、その直後妙な言葉が耳に飛び込んで来た。

「コイツは俺の弟子だ。」

は・・・はい?今、何て言いました?

肩に置かれているのは三蔵の手・・・そして突然向けられた沢山の視線はあたしを見つめるお坊さん達の驚きの視線。
酸欠の金魚のように口をパクパクと動かしながら隣にいた三蔵を見るが、三蔵はしれっとした顔をしてあたしの方を一切見ない。
周りのお坊さん達の騒ぎはどんどん大きくなる。
その中で中堅と思われるお坊さんが三蔵に勇気ある質問をした。

「あの・・・三蔵様、そちらの方はもしや・・・女性では?」

あ、ばれた。
当たり前と言えば当たり前だよね。
大き目の服を着ているとは言え体型は誤魔化せないんだから・・・な〜んて思っていたのに、三蔵はひどく真面目な顔でそう質問してきたお坊さんに向ってハッキリ言った。

「・・・お前の目にはコレが女に見えるのか?」

「なっ・・・」

何だってー!!!

無意識に声を上げかけて、後ろにいた八戒がそっとあたしの口元を押さえた。
視線をそちらへ向けると、八戒がもう片方の手を口元へ持っていって「しー」と言う合図を送っていることに気付いた。
そうだ、あたしはここにいる間喋っちゃいけなかったんだ。

それから三蔵は大げさにため息をついてみせると、いかにあたしが女に見えないかと言う事をまるで説法でも説くかのように周りのお坊さん達に淡々と説明し始めた。
その説明を聞いていたらだんだん頭が真っ白になっていった。
思わずあたしって実は男だったんじゃないか!?と思ってしまうほど信憑性がある言い方だったから。
・・・いや、ちゃんと女なんだけどね?あたしは!!
でも三蔵の言い方がほんっとうに上手くて分かっていても思わず信じてしまいそうになっちゃうんだよ。

・・・って事は真実を知ってる悟浄達はどう聞いてるんだろう?

ちょっと興味があって後ろにいる悟浄達を見たら・・・笑ってるし、しかも大爆笑。
悟浄と悟空はあたしから思いっきり目を反らして目に涙を浮かべながらお腹を抱えて笑ってる。
あたしの口を片手で塞いでいる八戒ですら、その手が若干震えている。
三蔵ってば何考えてるの?

「俺の身の回りの世話は全てコイツに任せてある。ここでの余計な世話も不要だ。」

一通り説明が終わった所での発言に、多分三蔵の世話を任されていただろうお坊さんが声を上げた。

「しかし三蔵様!」

「何だ。」

うあぁ!可哀想・・・あのお坊さん固まっちゃったよ。
暫く重い空気が部屋を包み込んだが、やがて一番偉いお坊さんが側にいたお坊さんに声を掛けてその手に鍵を渡した。

「それでは三蔵様、先程のお話の続きをしたいのですが、お供の方もご一緒の方が宜しいですか?」

「いや、俺だけでいい。」

「左様ですか・・・ではお供の方は先にご用意した部屋へご案内させましょう。」

「それでは此方へ・・・」

そう言うと三蔵よりもちょっと年上っぽいお坊さんが部屋の扉を開けてくれて、促されるまま部屋を出て長い廊下を歩いてようやく部屋へ通された。










「いや〜あーゆー説法ならオレ聞いてやってもいいなぁ〜♪」

通された部屋のベッドに横になった悟浄は楽しそうに笑っている。

「三蔵も結構二枚舌・・・ですよね。」

「でもあの人達信じたのかな?が男だって・・・」

「信じる信じないは別として、玄奘三蔵法師の言葉に異を唱えるような勇気ある方は此方にはいらっしゃらないと思いますよ。」

皆が楽しそうに談笑している間に、あたしは取り敢えず一番奥のベッドに腰掛けると無意識のうちに大きなため息をついてしまった。

「はぁ・・・あたしって・・・」

玄奘三蔵法師様の生説法・・・ね。
普段ならそれを聞ける事を嬉しいと思うんだろうけど、今日の説法は何ていうか・・・『いかにあたしが女らしくないか』と言うのを淡々と説明された気がして、ちょっと気が重い。
もう一度ため息をつくと、八戒が隣に座ってあたしの頭を撫でてくれた。

「三蔵が持ってきてくれた着物で体型は隠せましたけど、さすがにの可愛らしい声までは隠せませんからね。」

「え?」

「あそこまで三蔵がの事を弟子として説明しておけば、余計な詮索もはいらないでしょうけどね。」

「詮索?」

八戒の声に弾かれるように顔をあげると、悟浄もベッドから立ち上がってあたしの方にゆっくり近づいてきた。

「さっきのヤツラ見たろ?関係ないヤツとか邪魔モンはココに置きたくねェんだよ。」

「関係ない?邪魔な人?」

「一応ここはお寺ですから・・・女人禁制なんですよ。」

・・・あっ、そう言えばそっか。
だから三蔵はあたしに服の上から着物を着せて体型を隠させて、声を出させないで自分の弟子だって言う事でお寺の中に入れるようにしてくれたのか・・・気付かなかった。

「仮に中に入れたとしても男ばっかの所にオンナ一人って息苦しいだろ?」

「それに万が一部屋を別にされると何かあった時困りますしね。」

「そうそう。」

「まぁ同じ部屋でも危険な人がいますけど・・・」

「・・・誰のコト?それ。」

「さて、の寝る場所にカーテンを引きましょうか。悟空、そこの余っているシーツ取って下さい。」

「聞けよ人の話!!」

悟浄が八戒に向かって何か叫んでるけど、八戒は悟空に取って貰ったシーツを器用にベッドの間に張って、簡易カーテンを作ってくれた。
そっか、皆と同じ部屋ってことは一緒に寝るって事だもんね。
・・・一緒、一緒ぉ!?

「大丈夫ですよ。が眠る時はこうやってカーテンを引いて中が見えないようにしますから、安心して休んでください。」

「あ、ありがとう八戒。」

やっぱり顔に出るのかな?
頬を手で引っ張っていると、軽いノックの音が聞こえた。

「は〜い。」

思わず反射的に返事をしちゃって、側にいた八戒が慌ててあたしの口を手で塞いだ。それと同時に手にお茶を持った少年が不思議そうな顔をして部屋の中に入ってきた。

「あの・・・お茶をお持ちしたんですが、今女性の声・・・しませんでしたか?」

「あ・・・あぁ、えっとそりゃ悟空の声だ。な、八戒?」

「え、えぇそうです。彼まだ変声期前なんで女性みたいな声がたまに出るんですよ。」

「えー俺別に・・・」

バフッと言う音と共に悟浄が何か言おうとした悟空の頭に枕を投げつけて、そのまま悟空の体をベッドに押し付けた。
バタバタともがいている悟空の声は枕と布団に吸収され意味のない音となっている。

「恥ずかしくって顔もあげられねェな!」

「と言う訳ですので紛らわしくてすみません。」

「はぁ・・・それでは三蔵様はもう暫くしたらお戻りになりますので、それまでどうぞごゆっくりおくつろぎ下さい。」

「ありがとうございます。」

「それでは失礼します。」

パタンと言う音の後、全員が耳を立てて足音が遠ざかるのを待つ。
やがて完全に足音が消えて、八戒と悟浄が大きく息を吐いた。

チャ〜ン?さっき何て言ったか覚えてる?」

「ゴメン!つい条件反射で・・・」

「暫く人は来ないと思いますが、はあまり大声で話さない方がいいかもしれませんね。」

「うん、そうする。」

「ぷはっ!いい加減離せよ悟浄!!」

「お、ワリィワリィ。すっかり忘れてたゼ。」

酸欠状態で顔を真っ赤にした悟空が、押さえつけていた悟浄を睨みつける。

「ゴメンね悟空、あたしが余計な事しちゃったから。」

が謝る事ないって!気にすんなよ。」

「そうそう、おサルさんは脳みそ少ないからそんなコト覚えてらンないって。」

「いちいち煩いんだよ!このダメ河童!」

「あぁ?やるかチビザル?」

こうして二人のいつもの小競り合いが始まった。
それを見て止めるべきかどうしようか悩んでいたら八戒がお茶を目の前においてくれてにっこり微笑んだ。

「取り敢えずお茶でも飲んで一息つきましょう。もうすぐ三蔵も戻る事ですし。」

それはつまり、二人が騒いでいても三蔵が戻ってくればすぐに大人しくなるからほっとけと・・・そういう訳かな?
チラリと視線を八戒に向けると、八戒は何も言わず小さく頷いて自分が入れたお茶を静かに飲んでいた。
それを見てたらあたしも急にのどが乾いてきて、八戒が入れてくれたお茶を手に持って一口飲んだ。





何が起きるか分からない、見知らぬお寺の中。
唯一事情を知っているはずの三蔵はまだ戻らない。
一体ここに、三蔵は・・・あたし達は何をしに来たの!?





BACK          TOP          NEXT



ようやくお寺の中に入りました。
予告にもあった三蔵の生説法は・・・「如何にヒロインが女らしくないか」と言うのをお坊さん達に淡々と話すと言う内容でした。
三蔵様ファンの方、申し訳ない!
でもそれはヒロインを男で弟子と言っておけば、無事寺の中に入れて自分達と一緒に入れるという考えの元ですので・・・ご了承下さいませm(_ _)m
次、ようやく本題に入れる・・・筈です(苦笑)