「・・・皆さん、起きてらっしゃったんですか?」
の体をそのままあそこへ置いておく事も出来ず、取り敢えず部屋へ戻ると三蔵を初め悟浄、そして悟空までがしっかり目を覚ましてこちらを見ていた。
こちら・・・正しくは僕の腕に抱かれているの方をじっと眺めていると言った方が正しいかもしれませんね。
「なんかさ・・・の声が聞こえたんだ。」
一番最初に口を開いたのは、普段なら第一声が『腹減った』と言うはずの悟空。
枕を抱えて伏せられている瞳は寝ぼけているのではなく、何かを考え込んでいるようにも見える。
「とにかくチャン寝かせとけよ。」
いつまでも戸口に立っていた僕の肩を悟浄に叩かれ、はっと気づいたように腕の中のを一番奥のベッドへ横たわらせると布団を掛けた。
「・・・何があった。」
三蔵の問い掛けに、僕は一呼吸を置いてから先程あった事を全て話した。
が鏡に閉じ込められてしまった事。
の体には今、李荊藍(リ ケイラン)という別の女性の魂が入ってしまっている事。
そして彼女の体を、正しくはその魂を取り戻す為には3日以内に荊藍の探している指輪を見つけなければ、最悪が死んでしまうと言う事を・・・。
「えっ!嘘!!死んじゃうの!?」
「まだ決まっちゃいねェだろ!縁起のワリィ事言うんじゃねェよ!!」
「三蔵、何か荊藍と言う女性について知りませんか?」
「・・・知っている。」
「「何を!!」」
言い合いをしていた筈の悟浄と悟空の声が重なる。
二人が真剣にの心配をしているのが自然と伝わってきた。
「昨日、あまり詳しく話さなかった事がある。」
三蔵はチラリとカーテンの向こうで休んでいるの方へ視線を向けたが、すぐに手元へと視線を戻した。
「あの鏡を所有していた家の名は『李家』・・・そして荊藍と言うのはその家の一人娘だ。」
「「ええっ!!」」
「二人とも静かにして下さい。三蔵、続きをお願いします。」
三蔵が何か言うたびに二人の声が上がるので、僕はそれを止める為無意識に声を上げてしまった。
珍しい顔をしている二人を余所に、僕は三蔵の言う事を一言一句逃さないよう耳を傾けた。
「3ヶ月ほど前、荊藍はとある男性と婚約した。その男は荊藍の幼馴染の男で、周囲も二人が一緒になるのを首を長くして待っていたと言うくらい仲が良かったそうだ。しかし婚約して数日後、不慮の事故でその男は死んでしまった。」
外からは早朝の僧達の朝の日課のような読経が聞こえてきたが、この部屋は三蔵の声との寝息しか音となっているものは無かった。
「良くある話だ。川で溺れている子供を助けようとして、雨で増量していた川に飛び込み・・・死んだ。だが幼馴染でいつも一緒にいるのが当たり前だった荊藍にとって、その男の死は他の誰の死よりも大きなものだった。」
「・・・そうですね。」
その気持ちは・・・誰より分かる。
「元々健康な荊藍だったがその男の死後、ショックで弱りきってしまい暫く寝込んでしまったそうだ。そんな時運が悪い事にこの辺りをたちの悪い病が流行り、生きる希望を失っていたあいつも例外なくその病にかかり息を引き取った。・・・これが鏡に霊が取り付く前の話だ。」
「何で昨日のうちに話さなかったんだよ!」
立ち上がって三蔵の胸倉を掴んだ悟浄の手は、怒りの所為か僅かに震えているようにも見える。
「・・・昨日のの状態でこんな話をアイツが聞いたらどうなると思う?」
その言葉を聞いて三蔵の胸倉を掴んでいた悟浄の手が一気に緩んだ。
「アイツが何もしないと思うか?」
「それは・・・無理でしょうね。」
の事ですから、逆に自分から荊藍の元を訪れてしまったかもしれませんね。
そうでなくても今より悪い状況になる可能性が高い。
今回荊藍の意図を知らないは最低限抵抗した結果、今のような状態になっているんですから。
「・・・クソッ!」
「なぁ、どうすればを助けられるの?」
三蔵の話を聞き終わって誰もが口を開かなかった中、悟空がじっとカーテンの中で眠るの方を見ながら誰に言うでもなく声を発した。
「どうしたらまた、起きて遊んでくれるの?」
「それは・・・」
「どーもこーもその指輪とか言うのを見つければいいんだろ。」
一番最初にそう答えたのは悟浄だった。
「指輪を見つけてその女に渡せばの体を返すという約束だったな、八戒。」
悟浄の言葉を補足するように話す三蔵の言葉に同意するように頷く。
「え・・・えぇ、一応。」
「ンじゃとっとと見つけてチャンに戻ってきてもらいましょ。」
僕の肩に手を置くと、悟浄は指で空中に四角を描き始めた。
「まだ、トランプの再戦してねーしナ?」
「・・・そうですね。、負けてばかりで悔しがってましたもんね。」
僕はいつものようににっこり笑うと、取り敢えず三蔵へ今日どうするかを確認した。
「俺は寺に残って他の坊主達に鏡の事について調べてくる。その間に悟浄、八戒。お前達はここから一番近い町へ行って『李家』を探してくれ。」
「『李家』で指輪についてお伺いしてくるんですね?」
「そうだ、他に幼馴染の男について何か知っているかもしれん。それも聞いて来い。」
「よっしゃ!任せとけ!!」
「分かりました。」
ベッドに眠っていたジープの背中を叩いて声を掛ける。
普段と違う様子に少し戸惑いながらもいつものように僕の肩に飛び乗ると小さな欠伸をひとつした。
「な!俺は俺は!!」
部屋を出ようとした僕らの側で、悟空が三蔵の服を引っ張りながら何か叫んでいる。
僕は今すぐにでも何処かへ走り出していきそうな勢いの悟空の頭にそっと手を置くと視線を合わせた。
「悟空はと一緒にここで待っていて下さい。」
「え?ここで?」
「そうです。ここはお寺で本来なら男の人しか入っちゃダメな所なんです。でも悟空はと離れたくないでしょう?」
「うん。」
素直に頷く悟空を見て僕は自然と笑顔になる。
「他の人にがいる事が見つかっちゃうともしかしたら追い出されちゃうかもしれません。だから悟空がここにいてを守ってあげてください。」
「俺が・・・を?」
「えぇ、とっても大切な仕事ですよ?」
本当なら僕がついていてあげたい所ですが・・・今は指輪を探さなければいけない。
「サルにはちぃ〜っと荷が重いか?」
「んな事ねぇよ!は俺が守る!!」
悟浄に茶化されながらも自分の役目を悟空はしっかり認識した。
これでの体は何があっても大丈夫・・・ですね。
部屋の中に残った悟空に見送られながら僕と悟浄は寺の出口へ、三蔵はそれとは反対の朝の読経が響く部屋へと足を進めて行った。
今、はどんな気持ちで鏡の中にいるのか・・・
何を考え、何を思って一人いるのか・・・それを思うと自然と足が速くなる。
荊藍の過去が明らかに!!そしてついに皆さん動き始めました。
これから指輪の手掛かりを探しに動き始めます。
もともとシリアス書くガラじゃないんですよ、私!
のんびり、ほのぼの、甘い話を書くのは得意なんですけど(上手い下手はこの際置いといて!)
真面目な話はキチンと設定を作らないと失敗するので苦手なんです。
でもこの話は失敗したくないので、何とか無い知恵使って頑張ってます(笑)
しかし荊藍がどうして死んでしまったのかとか色々考えていたら結構辛くなりました(苦笑)
ヒロインもですが、荊藍もキチンと助けてあげたい!!と思いながらプロット立てたんですが・・・どうなるんでしょうねぇ(おいっ)
さて、それでは引き続き八戒に頑張ってもらいましょう!!