!どうしてこんな所に・・・」

「・・・八戒。」

「向こうに戻ったのかと思ったんですけど妙な胸騒ぎを感じて探しに来たらこんな所に一人で・・・」

僕は手にしていた上着をそっとの肩にかけた。

「ゴメンね八戒。ちょっとお手洗いに行ってたんだ。」



そう言って少し笑った表情が・・・何処かいつものと違っていた。



「さ、帰ろう八戒。私ちょっと冷えちゃった♪」

僕の手を掴んで歩き出そうとする手を振り払い、驚愕の表情を浮かべたをじっと見つめ僕はゆっくり口を開いた。

「貴方はどなたですか?」

「な、何言ってるの八戒!?私よ?に決まってるじゃない!」

「いいえ違います。」

僕はと名乗る人物の腕を掴むと逃げられないように強く握った。

「例え他の誰が貴方の事をだと言っても僕には違うと言い切る事が出来ます。」

「は、八戒?」

何かに怯えるように僕を見るの視線・・・でも、やはり違う。

「僕を甘く見ないで下さい。」

空いているもう片方の手に気を集め始めるとそれを彼女の方へ向け、自分でも驚くくらい抑揚の無い低い声で彼女へ声を掛けた。

「本物のは何処にいるんです。」

俯いてしまった姿を見て少し心が痛んだが、やがて顔をあげて僕を見るその瞳には何か強い決意のようなものが伺えた。

「・・・この体は本人のモノ。この体に傷をつければと呼ばれているその子もただじゃすまないかもね。」

「一体どういう事です。」

「その手の怪しいもの、消してくれる?ちゃ〜んと話してあげるから。」

クスクス楽しそうに笑うその姿はどこからどう見てもと同じなんですが・・・その笑顔が、違う。

「・・・分かりました。」

僕は手に集めていた気を散らすと、何も無くなった手の平をと名乗る人物の方へ向けた。

「これで宜しいですか?」

「どうもありがとう。で、貴方が探している本物のは・・・あそこにいるわ。」

彼女の指先を辿って行くと、その先には大きな鏡が置いてあった。



そこに映っているのは僕と・・・



が・・・映っていない?」

「そう、だって私はじゃないから・・・本物のはあの鏡の中にいるわ。」

「まさか・・・貴女は・・・」

眠る前に三蔵が言っていた言葉を思い出す。





このお寺に預けられたという鏡の話。
その鏡に姿を映した女性が夜な夜な奇怪な行動に出るというその話を・・・。





「知っているのなら話が早いわ。私の名前は李荊藍(リ ケイラン)、ある人から貰ったある物を探しているの。それが見つかれば速やかにこの体はあの子に返してあげる。その代わり見つからない限り私はこの体から出ては行かない。」

「・・・取引と言うわけですか。」

「そう取ってくれても構わないわ。でも私はどうしてもあれを見つけなきゃいけないの!」

は・・・無事なんですね?」

「今の所はね。」

「今の所?」

の体に入った荊藍という女性は鏡の方へ歩いて行くと、その鏡の脇に立って冷たい微笑を浮かべた。



の姿には不似合いな・・・何かを企んでいるような笑顔。



「私がこの体を動かせるのは夜の間だけ、勿論食事なんて取る事は出来ない・・・って事はどうなるか分かるでしょう?」

「時間がかかればかかるだけ・・・の体が衰弱してしまう、という事ですか?」

「当たり。ついでに言えばこの鏡の中にいるって子の魂も弱ってきちゃうだろうから・・・この体に入った感じからして大体3日が限度って所かしら?」

「3日・・・。」

「この子が大切なら頑張って見つけて頂戴・・・私が馮祁(ヒョウキ)から貰った指輪を!!」

「指輪・・・それが貴方の探し物ですか?」

「そう、真ん中に大きな緑の石が埋め込まれてるちょっと古い感じの指輪。詳しい事はこのお寺の人が知ってるはずだから、その人に・・・聞いて・・・」

それだけ言うとまるで糸が切れた人形のようにの体が壁にも垂れたまま座り込んでしまった。
そのまま倒れないよう慌ててその体を受け止めると、小さな寝息が聞こえてきた。

「・・・?」

名前を呼んでも目は開かない。
外をみると朝日が昇り始め、真っ暗だった部屋が徐々に明るくなってきた。










の体に入っている荊藍と言う人の言う事が何処まで真実か・・・それは分からない。
でも明らかにこの人物がではない事は分かる。
僕はの体を静かに床に寝かせると、側にあった大きな姿見にそっと手を伸ばす。

?そこにいるんですか?」

しかし当然の事ながら鏡の向こうからは何の返事も返って来ない。
鏡に映っているのは自分でも驚くくらい暗い表情をした僕の姿だけ・・・。



それでも言わずにはいられない。



「必ず僕が助けます。だから僕を信じて待っていて下さい。」

鏡に映らない、見えない部分で拳をギュッと握り締め、鏡の中にいるが安心するよう精一杯の笑顔を鏡に向ける。





この想いが、この気持ちが、鏡の向こうのに届いている事を信じて・・・





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えっと第2部開始です。
八戒さん目当ての方、おめでとうございます。その他の方・・・スミマセン(TT)
一応この後、八戒視点で物語は進行していきます。
他の方々も勿論登場します!色々行動してくれます(今はあまり多くは言えませんが・・・)
ただ八戒視点で進んでいくと言う事だけご了承下さいませm(_ _)m

この連載は、このシーンが一番最初に出来ました。
だからこのシーンのプロットだけなら4人分あるんです(笑)
ここが書きたい為に前後を書いたと言っても過言ではありません!!
それだけ好きな場面ですv
外見は眠る前と何の変化も無いのに実は中身が入れ替わる事に気付いてくれる・・・そんな八戒に会いたかったんです(意味不明)
オマケで分かりやすい偽者と本物の区別の仕方(笑)
一人称が違うんです。ヒロインは「あたし」荊藍は「私」と言ってるんですよ♪気付きましたか?