「うぅぅ〜・・・苦しいぃー」
「ほら言ったろ?無理すんなって・・・」
「うううぅ〜」
「とりあえず胃薬でも飲みますか?」
八戒が胃薬を、悟浄がそれを飲む為の水を持ってきてくれた。
調子に乗って八戒のデザートと悟浄のケーキを食べつくしたあたしはまぁ予想通り・・・胃がパンパンに膨れ上がってしまい食べ終わると同時にソファーへ倒れこんでしまった。
「もう食べれないぃ・・・」
「もう何もありませんよ。」
あう、八戒の声がちょっと怖い。
ソファーに横になっていたあたしはちょっと体を起こすと、八戒の洋服の裾を引っ張った。
「・・・ごめんなさい。」
条件反射のように八戒に謝ると、少し困った顔をした八戒が頭を撫でてくれた。
「これからは無理して食べないで下さいね?が体を壊しては意味ありませんから。」
「はい。」
「ま、暫くゆっくりしてりゃハラも落ち着くだろ。」
床に座り込んだ悟浄がタバコに火をつけ煙を宙に吐き出すと、八戒が無言で灰皿を手渡した。
そして悟浄の脇に置かれていたコーヒーの空き缶はやはり無言で八戒の手へと渡された。
暫くそれぞれがのんびり過ごしていた所へ勢い良く扉を叩く音がしたかと思うと、小さな人影が家の中に飛び込んできた。
この家に来る人物でそんな事をするのはただ一人。
「悟空?」
「悟空!?」
「どうしたんですか悟空?」
三者三様の驚きの後、悟空は悟浄と八戒に目もくれずソファーで横になっていたあたしの側に駆け寄って来ると、大切そうに手に持っていた小さな花束を目の前に差し出した。
「、これこの間のお礼!!」
「え?」
「この間オレと三蔵にチョコレートくれたろ?だからそのお礼!」
にこーっと笑って差し出された花は、店に売っているというよりは道に咲いている花を摘んできた感じ。
綺麗にラッピングされているわけじゃない。
ましてリボンが結ばれてるわけでもない。
根っこから引き抜かれて悟空の手で束ねられているその花束は、丁寧に泥がはらってあって小さな花と一緒に蕾もたくさんついている。
それがやけに悟空らしくって、あたしは胃が苦しくて寝込んでいた事も忘れて笑顔で花束を受け取った。
「どうもありがとう悟空。大切にするね?」
「へへぇ・・・あ、あとコレもにやるな。」
そう言って悟空が胸元から取り出したのは・・・ちょっと潰れかけた・・・お饅頭?
あたしの手にそれを乗せてニコニコ笑っている悟空の肩を八戒が軽く叩いた。
「ご・・・悟空?ちょっとお伺いしますが、このお饅頭は何処にあったんですか?」
何処で買ったんですか?と言わない所が質問者を悟空に限定している。
悟空は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔になると恐らく自分が住んでいるであろう方向をためらわず指差した。
「三蔵トコの寺。」
「・・・やっぱり。」
「えぇっ!」
予想通りの答えにもう笑うしかない八戒と、手の上に乗っているのがお供え物だという事に焦るあたし・・・そして握り拳に息を吹きかけ悟空の頭に向けて振り下ろそうとする悟浄。
「・・・お供え物パクッてんじゃねェよ、この欠食サル!!」
悟浄に頭を拳骨で殴られ、悟空がキッと悟浄を睨みつけた。
「何すんだよこの暴力エロ河童!!」
「あぁ?やるってのか?この馬鹿サル!」
そうして二人は良く原作で見られる光景をあたしの目の前で繰り広げた。
それを堪能するまもなくあたしは手の上に乗せられたお饅頭を見つめる。
これ・・・貰ってもいいもの・・・なのかな?
あたしの気持ちを察した八戒がそのお饅頭をお皿に乗せた。
「・・・証拠隠滅という事で、今日の所は悟空の気持ちを優先しましょう。」
「そ、そうだね。」
「でも、食べるのはもう少ししてからにしてくださいね。まだお腹いっぱいでしょ?」
「・・・はい。」
無理をしちゃダメだと言われたから・・・八戒の言葉に素直に頷く。
「あぁぁーーーーっっ!」
悟浄と小競り合いをしていた悟空が急に立ち上がったかと思うと、慌しく洋服のアチコチを叩き初め、全てのポケットをひっくり返し始めた。
「どうしたの悟空?」
そろそろと近づいて悟空に声をかけると、真っ青な顔をした悟空がポツリと呟いた。
「・・・無い。」
「え?」
「お前の脳みそは前から空っぽだろ?」
「違うんだよ!!三蔵から・・・」
悟空の台詞の途中でやはり先程と同じように勢い良く扉が開いたかと思うと、それよりも大きな声が部屋中に響いた。
「こっの馬鹿ザルー!!!」
バシーーンというのは今や聞きなれた三蔵のハリセンの音。
目の前にいたはずの悟空は床に潰れており、見上げると肩で息をする三蔵がハリセンを携え立っていた。
「少しはドアを丁重に扱えっつーの・・・」
「貴方に言えた義理は無いでしょう?悟浄。」
「だ、大丈夫悟空!」
「いってぇ〜・・・」
相変らず丈夫な頭だ。
とりあえず意識のある悟空にホッと胸を撫で下ろし、目の前にいる三蔵に声をかける。
「どうしたんですか三蔵様!?そんなに汗かいて・・・」
「・・・大したことは無い。」
手の甲で汗を拭った所へ八戒がいいタイミングでお茶を運んできた。
「とりあえずお茶でもいかがですか?どうも本当に急いでいらしたみたいですし・・・」
「三蔵がねェ・・・」
カチャリと銃を取り出す音が聞こえ、一瞬体が硬直した。
「三蔵、が驚くから無暗に銃を取り出すの止めてくださいね。」
「そうそう。」
口が滑ったとは言え銃が向けられなかった事に安心した悟浄が茶化すように三蔵の方をチラリと見た。
「悟浄も三蔵の神経を逆撫でするの止めてくださいね。」
「・・・ハイ。」
これっていわゆる喧嘩両成敗?
それから皆でお茶を飲んで、八戒と一緒に作った夕食を皆で食べて・・・食後のお茶でも飲もうとした時、三蔵が近くの寺に用事があると言い出した。
床に寝転がっていた悟空の首根っこを捕まえるとそのまま引き摺って外へ向かった。
「ジープで送りましょうか?」
「かまわん、そう遠くない。」
「三蔵が遠慮って・・・明日は雨か?」
「でも空の星はすっごく綺麗だよ。」
三蔵を見送る為外に出たあたしは、頭上に瞬いている沢山の星を指差した。
「もう食えねぇ〜・・・」
「ちっ、寝ぼけてやがる・・・」
「悟空いっぱいご飯食べたもんね。」
くすくす笑いながら三蔵に引き摺られかけている悟空の頭を撫でようと手を伸ばすと、三蔵が急にあたしの手を掴んだ。
「・・・。」
急に名前を呼ばれ思わず体を硬直させてしまった。
三蔵に名前を呼ばれるのって・・・慣れないなぁ・・・。
そんな事を考えていたら三蔵が袂から小さな包みを取り出し、それをあたしの手に握らせた。
「・・・礼だ。」
「え?」
それだけ言うと三蔵は寝ぼけた悟空を引き摺りながら、暗くなった夜道を足早に去っていった。
「な〜にしに来たんだ?アイツ?」
カリカリと頭を掻く悟浄とは反対に、何故か苦笑している八戒。
「三蔵の目的もきっと僕らと同じですよ。」
「はぁ?」
「ねぇ?」
「え?えっ!?」
あたしの手にさっきまで無かった袋があるのを八戒は見逃さない。
それに気づいた悟浄も口元を僅かに緩ませて楽しそうにあたしの手を覗き込む。
「何?三蔵から?」
「いや、そのっ・・・」
「開けてみたらどうですか?」
「そ、そうだね・・・」
ちょっとドキドキしながらも三蔵から貰った袋を開けてみる。
手の平に乗せられた無地の紙に包まれた中から出てきたのは・・・細いテグスと可愛らしいビーズで作られたブレスレット。
「可愛い・・・」
それを手に取って月の光に照らしてみると、キラキラ光るビーズが何だか三蔵の瞳の色に少し似ているような気がした。
「坊主のクセにイイ趣味してやがる・・・」
「よかったですね、。」
「うん!!」
今日は3月14日、ホワイトデー
2月14日にあげたチョコレートと女の子の気持ちに応える日。
皆からの予想外のプレゼント・・・少しはあたしの事気にしてくれてるって自惚れてもいいのカナ?
本当に嬉しかったよ。
長っっ!!余りに長いので前・後編に分けました。
一応バレンタインデーの後のイベントはホワイトデーでしょう!!
書けるかどうか微妙だったんだけど、一応書けたという事で・・・。ちょっと難産でした(涙)
書いた日はこのままボツにしよう!って勢いだったんだけど、数日たって読み返すと・・・ま、いいか?という状態になりました。こんな適当な書き手でスミマセンっ!
悟空のプレゼントは初め花かお饅頭(寺の物、または試食品)のどちらかだったんですが、どっちも可愛らしかったので使っちゃいました♪
悟空の懐に入っていたお饅頭・・・良く食べずにいられましたね、悟空(笑)
そして一人アクセサリーをプレゼントしてポイントを稼ぐ三蔵(苦笑)
特に深い意味はありません。何となくセンスのいい物を買いそうだな・・・と。
だって三蔵がお菓子買う姿って想像できますか!?私にはできませんでした!!
そして何故かこれが書きあがった時、4人の裏話が頭に浮かんだのでちょっと書いてみました。
プレゼントを買う(選ぶ)経緯?みたいな物です。
バレンタインとホワイトデー(前・後)を読んでからだと繋がっててちょっと面白いかも(苦笑)
裏ホワイトデー(笑)大したことは無い